ういんういんういん、
……またこの摩擦音か。
重だるく頭を上げると、すぐそこにはアンドロイドの頭部たる円盤。
『お目覚めですか。水分補給をどうぞ。』
……シリンダーを差し出され、口に含む。イオン電解水だ。
どうやら、貧血を起こしたまま……床で寝ていたらしい。背中にはまた毛布が掛けられていた。気の利くことだ。
……のろのろと、眉間を抑えて立ち上がる。まだ少し、ふらふらとした。
『新着メッセージ一件。』
脇の銀色がくるりと回る。
ぴこんという電子音と共、抑揚のない声で喋った。
「………誰だ」
『旦那様より。読み上げますか?』
「……ちっ」
可とも不可とも言っていないのに、向こうは勝手にメッセージを開封する。
『読み上げます。DEAR
HONEY。FROM PELU。件名。生きてるか?本文。最近食事抜いてるだろう。分かってるぞ。近い内に行く。お土産待ってろ。愛してるよ。以上。返信しますか?』
「……死ね」
『返信しました。』
毎回、返事はこんな風なのに……あの男もまあ、よくも飽きずに送ってくるものだ。
……その文面を思い出し、顔を顰める。
「……なんであいつは…どうやってひとの生活を把握してるんだ…」
腕に鳥肌が立つ。
ただでさえ具合が悪いのに、一層悪寒がした。
「……ハニーってなんだよ…うえっ……」
吐き気まで悪化した気がする。何という疫病神。
……奴め、昔はどうしようもなくへたれて、気の利いた言葉の一つも言えない頓珍漢だったくせに。あのすぐ真っ赤になる朴念仁は、いったいどこへ行ったのか。
大方、歳を重ね過ぎて頭がいかれたのだろう。これもこの世界の呪いか。
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