望郷。 | ナノ

2−4


……頭が痛い。

今日も今日とて、液晶の波長を眺め続ける一日だ。
……だがどうにも、数日前から体調を崩したようである。目眩と吐き気がした。食欲も無く、スティックすら敬遠している。


『栄養を摂取しましょう。』

「……いらない」

『栄養を摂取しましょう。』


最近、アンドロイドが誰かに似てきて煩い。





◆◆◆◆





「……ん…?」


データをスキャンして移動させようと、機具へ向かった時だ。
……突然、足元がぐらっときた。地震かと思ったが、自分の立ちくらみだ。

やれやれと収まるのを待ったが、一向に終わらない。
そうしている内に視界がどんどんと暗くなって、膝が笑い始めた。

アンドロイドが、ぴこぴこと何事か鳴ったが……意味は、わからなかった。





◆◆◆◆





……ああ…またか。

身体が動かなかったので、なんとなくそうだろうなとは思った。


『帰りたいか?』


声。……また、懐かしい声だ。
穏やかで、優しく……けれど威厳に満ちた。


「……かえりたい、です………」

『どうしてだ?』


……揶揄うような。
しかし、不思議と有無を言わせない……そんな口調。


「ここは、我々のいるべき場所ではありません……」

『何故そう思う?』


懐かしい、主君の声。
……国王の問答は、相変わらずねちこかった。


「この世界は呪われています……」

『根拠は?』

「巡り続ける生涯と記憶。永遠に子を成せない身体。輪に在りながら、無き者として定められた縛り……」

『嫌か?』

「当然です……」

『帰りたいか?』

「無論……」


主は笑った。……憤慨する気力もなく、己は地に伏せ目を瞑る。


『……なあ、』


……また、名前を呼ばれた。
返事も待たず、王は言葉を続ける。


『道端の花は、何の為に咲くと思う?』


聞き覚えのある問い。……かつて自分の出した答えなど、覚えてはいない。
だが、即答する。


「生殖の為に」

『相変わらず、風流じゃないなあ……』


身動きは取れずとも……詰まらなそうに口を尖らす、剽軽ひょうきんな中老の姿が目に浮かんだ。


「余計なお世話です」


不敬なまでに言い切れば、相手はまた笑う。


『そんなに子が欲しいのか?』


ひくりと、喉が震える。虚を突かれ、自由にならない四肢が強張った。
……ただただ、沈黙する。


『女は難儀だの』

「………違います」

『……なにがだ?』


ぼそりと、否定すれば……きょとんとしたように聞き返される。


「……わたしは、ただ…」

『ただ?』

「証が……」


刹那。
……はっとして、口を噤む。


『あかし?』


……いま、何と言った?


「……あ…」

『何の証だ?』

「……それは…」

『何の為の?』

「わたし…は……」


狼狽に、動悸が激しくなる。
相手の、戯れのような語調。……それが、この身へいっそう冷や汗を浮かせた。


『……あ、分かった』


揶揄の中。重く……恐ろしいほど深淵に、果てのない含みを盛り。
にひ、と……あの、意地の悪い笑みを。この主は浮かべていたのだろう。



『お前は、欲深だなあ……』



コブラ様、違うのです。
わたくしめは。わたしは、ただ………


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