……頭が痛い。
今日も今日とて、液晶の波長を眺め続ける一日だ。
……だがどうにも、数日前から体調を崩したようである。目眩と吐き気がした。食欲も無く、スティックすら敬遠している。
『栄養を摂取しましょう。』
「……いらない」
『栄養を摂取しましょう。』
最近、アンドロイドが誰かに似てきて煩い。
◆◆◆◆
「……ん…?」
データをスキャンして移動させようと、機具へ向かった時だ。
……突然、足元がぐらっときた。地震かと思ったが、自分の立ちくらみだ。
やれやれと収まるのを待ったが、一向に終わらない。
そうしている内に視界がどんどんと暗くなって、膝が笑い始めた。
アンドロイドが、ぴこぴこと何事か鳴ったが……意味は、わからなかった。
◆◆◆◆
……ああ…またか。
身体が動かなかったので、なんとなくそうだろうなとは思った。
『帰りたいか?』
声。……また、懐かしい声だ。
穏やかで、優しく……けれど威厳に満ちた。
「……かえりたい、です………」
『どうしてだ?』
……揶揄うような。
しかし、不思議と有無を言わせない……そんな口調。
「ここは、我々のいるべき場所ではありません……」
『何故そう思う?』
懐かしい、主君の声。
……国王の問答は、相変わらずねちこかった。
「この世界は呪われています……」
『根拠は?』
「巡り続ける生涯と記憶。永遠に子を成せない身体。輪に在りながら、無き者として定められた縛り……」
『嫌か?』
「当然です……」
『帰りたいか?』
「無論……」
主は笑った。……憤慨する気力もなく、己は地に伏せ目を瞑る。
『……なあ、』
……また、名前を呼ばれた。
返事も待たず、王は言葉を続ける。
『道端の花は、何の為に咲くと思う?』
聞き覚えのある問い。……かつて自分の出した答えなど、覚えてはいない。
だが、即答する。
「生殖の為に」
『相変わらず、風流じゃないなあ……』
身動きは取れずとも……詰まらなそうに口を尖らす、
剽軽な中老の姿が目に浮かんだ。
「余計なお世話です」
不敬なまでに言い切れば、相手はまた笑う。
『そんなに子が欲しいのか?』
ひくりと、喉が震える。虚を突かれ、自由にならない四肢が強張った。
……ただただ、沈黙する。
『女は難儀だの』
「………違います」
『……なにがだ?』
ぼそりと、否定すれば……きょとんとしたように聞き返される。
「……わたしは、ただ…」
『ただ?』
「証が……」
刹那。
……はっとして、口を噤む。
『あかし?』
……いま、何と言った?
「……あ…」
『何の証だ?』
「……それは…」
『何の為の?』
「わたし…は……」
狼狽に、動悸が激しくなる。
相手の、戯れのような語調。……それが、この身へいっそう冷や汗を浮かせた。
『……あ、分かった』
揶揄の中。重く……恐ろしいほど深淵に、果てのない含みを盛り。
にひ、と……あの、意地の悪い笑みを。この主は浮かべていたのだろう。
『お前は、欲深だなあ……』
コブラ様、違うのです。
わたくしめは。わたしは、ただ………
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