「チャカ…!ど、どうして…!どうやってここに?!お前も落ちてきたのか?!それとも……あちらへ、繋がる道が…!!」
興奮に、声は弾む。頬を紅潮させ、声の主を振り仰ごうとし。
『振り向くな』
……その時、気が付いた。
机にうつ伏せた、自らの肢体は……まるで、万力で押さえつけられたかのように……動かなかった。
「……チャカ…?」
……なんだこれ。
なんで、体が動かない。薬物? 経口か、注入か。覚えがない。
目と、口だけがぱくぱくと開く。
「……なんで…?どうして?!」
声だけの兄分が、また笑う。……私の名前を、呼ぶ。
『……お前はどうにも、質問ばかりするようになったな。昔はちゃんと、自分で考える子だったのに』
揶揄を含んだ、笑い声の中。
……何処か、すっと血の気の引くような……そんな、なにかがあった。
「……チャカ…?」
『覚えておけ。……大抵の事は、誰に聞いたって分からない。無意味だ。……だがたちの悪いことに、自分に聞いても分からない事は多い』
「なにを言って……」
困惑の声を遮って、響く音。
『諦めが肝心だ。許容するんだ。そして、受け入れろ。……楽になるぞ』
この顔から、さっと血の気が引く。
「かえりたいんだ!!わたしたちは…!」
なにをいっているんだ。……諦めろ、などと。
どうして、そんな……馬鹿なことを。
『……ひとの話を聞いていたか?』
対する声は、呆れたように同じ言葉を反復した。
「かえりたい!!お願いだ、戻り方を教えてくれ…!ぜったいにかえるんだ…!!」
『聞き分けが悪くなったなあ……』
死に物狂いで絶叫する、この背後……なのに、相手の
気振りは飄然としている。
……今度は、頭へ血が昇った。
「巫山戯るな!!わたしたちが…!わたしたちがどれだけ…!!」
激昂のまま叫べば、刹那。
……ぞっと、背筋が粟立つ。
『……わたし"たち"って、誰のことだ?』
……声、が。
懐かしい、優しい声が。幼い頃から、子守のように聞いていた声が。
突如冷たく、鋭利に滑る。
「……え…」
記憶にない、その音の冷淡さに……呆然と目を瞠れば、また。
『……甘えるな。受け入れろ。……それだけだ』
氷の冷気で、炙られたような。
そんな幻触を焼き付ける、酷薄な響き。
「……チャカ…?」
深々としたそれは、同じくつめたい沈黙のうち……この胸を、抉る。
……返事は、終ぞ返ってこなかった。
「……チャカ!待って!行かないでくれ!!チャカ…!!!」
虚しい叫びは、目蓋の裏へと吸い込まれ………
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