Purple Tulip
【あてんしょん】
10/24日、ドレークさんハピバ!! という訳で、お誕生日ネタです。幼少時代の。捏造注意。
荒削り感が拭えないすいません。
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「ねードレーク! これ、あげる!」
いつもの場所にぼくが行って、堤に座って海や軍艦をながめていると、シルヴィーの声がしました。
「…どうしたの、シルヴィー? きょうはずいぶん遅かったね?」
そう言って振り返れば、とてとてと駆け寄ってきます。
にこにこと、ちいさくてまあるい顔をいっぱいに笑わせて、両手を後ろに隠したシルヴィー。その手には、何かが握られていました。
「えへへへへ…」
よく見れば、シルヴィーはいつもとずいぶん違った服を着ています。
いつもはかけっこしにくくてキライだって言っていた、ふりふりした白のワンピース。
「シルヴィー、きょうはどうしてそんなにおめかししているの?」
「えへへー、なんででしょう!」
そう笑ってくるんと一回転した、シルヴィーの背中が見えます。
「シルヴィー、そのお花、なあに?」
「……えーっ!! どうしてばれちゃったの?!」
「だって、うしろに隠してたの、回ったら丸見えにきまってるじゃない」
あたりまえの事を言えば、おばかなシルヴィーはわーわーと騒ぎます。
「あー!しまったー!サプライズにしようと思ったのにいー!」
くやしそうに地団駄を踏むシルヴィーに、ぼくは落ち着きなよと言ってあげました。
「…ねえシルヴィー、サプライズって、なんのための?」
ふと、不思議に思って聞けば、シルヴィーは変な顔をします。
「…えー…ドレーク、きょうがなんの日か、わすれちゃったの?」
にこにこしたり、ぷんすか駄々を踏んだりした次は、へんな渋っ面のシルヴィー。
そんなシルヴィーに、ぼくはおかしくて少し笑いながら、おぼえてないよと言いました。
「…もう! ドレークのどんかん!」
両手をぶんぶん振り回して騒ぐシルヴィーへ、ぼくが首を傾げれば、ふうと大人ぶったため息をつかれます。
「そんなににぎったら、その手のお花がしおしおになっちゃうよ」
ぼくは少しむっとして、おばかなシルヴィーにそう言い返してやりました。
そうすれば途端に、慌てたように片手のお花を見て、お利口になるシルヴィー。
シルヴィーは、そのいちいちの動きが本当に唐突で、いつ見ていても飽きません。
「あのね、きょうね、ドレークのおたんじょうびでしょ! だから、これ、あげる!!」
取りつくろってスカートのしわを伸ばすと、シルヴィーは片手に持ったそれを、おすましな顔でぼくへ手渡します。
「……あ! 誕生日!」
ぼくははっとして、思わず大きな声を出してしまいました。
それを見たシルヴィーが、また偉そうにため息をつきます。
「もう! ドレークったらいつもわすれてるんだから!」
「…そっか、またわすれてた。……ぼく、今日で8さいか…」
誰もお祝いしてくれない、ぼくなんかの誕生日を覚えているのは、お役所の紙切れと、この物好きなシルヴィーぐらいでしょう。
なんだか照れくさいような気がして、ぼくは3才年下のシルヴィーの頭を、わしゃわしゃとなでてあげました。
「……そっか、ありがとう、シルヴィー」
「うん! おめでとう!」
頭をなでられて、うれしそうにぴょんぴょんするシルヴィーの手から、贈り物を受け取ります。
「これ、プレゼント! きれいでしょー!」
それは、シルヴィーが振り回したせいで少しくったりしていましたが、可愛らしいリボンのかけられた、一本のちいさな、チューリップの花です。
それは白に、微かな色を足したようなやさしい紫色で。ぼくはとても、気に入りました。
「…きれいだね、ありがとう。これ、どうしたの…?」
「ふふーん!どういたしまして! あのね、これ、まちのお花屋さんでね、おこずかいでかったの! おかあさんが、いっしょにえらんでくれたんだ!」
また得意げに胸を張るシルヴィーの頭をなでながら、ぼくはなんだかとってもうれしくなって、いつの間にか、シルヴィーみたいに顔いっぱいで笑っていました。
「……ふふ、でも、シルヴィーからお花をもらうなんて…ふつう、男が女の子にお花を贈るものなんだよ」
「えーっ、べつにいいじゃない!」
またぴょんぴょんとしながら塀に飛びついたシルヴィーが、ぼくの横へよいしょとよじ登ります。
「…ねえシルヴィー、チューリップの花言葉って、知ってる?」
「しってる! 『おもいやり』だよね!」
ふと思い立って、シルヴィーになぞなぞをかけてみれば、なぜかあっさりと答えが返ってきます。
「…あれ、なんで知ってるの?」
「まえ、おかあさんにおしえてもらったの!」
「…あ、そっか。シルヴィーのお母さん、土いじりが好きなんだよね」
シルヴィーのお母さんは、強くて立派な。でも怖いような無表情で有名な、女の海兵さんです。
シルヴィーはそんなおかあさんのことを、とても好いていました。
「でもね、おかあさんったら、むらさきのチューリップにするってわたしがきめたら、おませさんだってはんたいしたの!」
「おませさんだって…? どうして?」
「わかんない! むらさきのお花の花ことばがどうとかいってた!」
「ふうん、そっか。じゃあ、紫色のチューリップの花言葉は何なの?」
「しらなーい、ドレークは?」
「…それは図書館の本にも載ってなかったから、分かんないや」
「そっか! ま、いいや!」
「うん、そうだね」
そんな話をとりとめもなくしながら、ぼくらは海沿いの塀の上で、足をぶらぶらさせています。
「ねっ!ドレーク! きょうは、いつもよりいっぱい遊ぼうね!」
「ふふ、そうだね、今日は何して遊ぶ?」
「かいへいさんごっこ!」
そういってうれしそうに、スカートの端から下着を丸見えにさせて塀を飛び降りたシルヴィーは、楽しそうに駆け回りました。
お行儀が悪いと声を上げて注意し、ぼくはいつものように、シルヴィーが転んだりしないか気をつけながら。その後を追いかけるため、歩き出します。
その前に、塀の上へそっと、ちいさな贈り物を乗せました。潰してしまわないように、傷めてしまわないように。
やさしく揺れた薄紫の花に、心の中はほかほかと暖かくなります。
「ドレークー!! はやくはやくー!」
いつの間にか登り切ったらしい丘の上から、シルヴィーがぼくの事を呼びます。
「今行くよ、シルヴィー! …あっ、そんなに走ったら……あーあ、転んじゃった。」
晴れ着を泥まみれにしたシルヴィーは、でも全然へっちゃらな様子でくるくる踊っています。
ぼくもそんな彼女を追いかけ、丘の上へと登って行きました。
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