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──あわあわとした草染め。こまやかな鳶の褐色。鬱金染めのきいろ・・・やら、練りべに・・花によくよく浸した緋色やら。はなやかな紫紺──。藍がえし。布材の自然じねんの色がほのかに残った生成きなりのしろ──…。
 おとこの指は籠の内部に布をつぎつぎ堆積させる。──きぬのやま。みな一様にどこかしら、原色の糸の刺繍が入る。はなやかであるものも、ごく慎ましいものであっても──布地の色に関わりなく、糸は、あざやかだ。蔦あみの白茶の籠に、染め布と刺繍のもようは七彩の層をなす……。
──ふと、手にとった被服のひとつを、おとこはその目で凝視する。男物だが、かれの持ちものではない。同居人の服だった。──その胸元にしみ・・がある。そばかすのように散っている、つち色の飛沫……。
──見落とした。
 おとこのしろい眉間あたりにふきげんな皺が寄る。──洗いのときに気づかなかった……。青紫せいしのくちはむっとの字に結ばれる。──いろ抜きするしかないろうか……。こわい顔で几帳面に思案する。
 原因は、きのうの夕餉の汁ものだろうとおとこはひとり吐息を漏らす。
──飯にがめつい・・・・こころのわりに、卓の上ではあれは凡にまともな作法で食べるのだったが。いずれにせよ不注意だ──…。
 思い出しては青紫のくちからため息が漏れてゆく。──大蒜にんにくと、胡すい・・に鬱金に馬芹うまぜりやらの挽き粉を混ぜて煮こんだような、色もにおいも格段つよい汁ものの日に限り──、かれのねこ・・はとくべつ派手に胸の辺りへこぼしたり。椀をみごとにひっくり返して腿にべったり模様をつけたり……。

──しみの酷い汚れものを大釜でいつもかれは煮る。
 煮立てた真水へ炉端に積もった白灰をひと掬い、ぱっと撒き、木棒でぐるぐる擦り混ぜる……。馴染んだ頃に衣服を入れて灰のあく・・で晒し煮る。
──苦く濁った沸かし湯は、あらゆるものの色を抜く──…。──兵営の泥土でいどが跳ねた長衣ながぎぬの裾うらも、昼ひなかの汗を吸って黄ばみかけた互いの襯衣シャツも。軍吏の袖のみょうな柄が無言で告げる──机仕事でぶち撒けたらしい墨壺の紺青も──…。共用するねや・・の、ふかく皺んだ敷布のよごれ。ことさらに青褪めた顔でおんなの指が真水に濯ぐ、血染めであった腰布。──月いちど。
──あらゆるよごれに貴賎はなく、ただ、よごれであるだけだ。
 おとこは日々淡々と、それらを灰のしるで煮る。……体液。春泥。食べよごし。青墨に凝血。──すべて、煮る。かれにはみんな同じこと。それらはつねひ・・・の作業に過ぎず、行いにこころの動きは伴わない。嫌悪も動揺も、かれには、ない。しみ・・がきれいに落ちてくれたら気分がよくなる程度のことだ。
 ただ──…。
 ごく、時おり、躰のうちに奇妙な感触はおぼえる。──自覚していた。……その気もちは、すこしだけ──…、盤あそびのそれに似る。……色をたがえた玉髄ぎょくずいの、簡素なかたちの駒を兵らに見たてて競わすそのあそび。……玉のように発汗し、大釜のいきれる蒸気と火炎の粉とに躰を晒す煮沸の時おり──。なぜか、その盤のことを思い出す──かれが、ねこ・・に──そのおんなに、った時のこころのうごきを、それは幾倍かに薄めたような情動だった。
──泡だつ苦い熱湯と、おどる火の粉を前にして、その脳裡に涼やかな色をかれは視る。胸の深くにあるけしき──…。
──盤は、たいてい、かれが白でおんなが青……。それぞれの陣を占め。向かいあい……。
(──あお・・の……、)
 あおのます、あおの駒──…。おんなのしずかな紺青を、おのれの白で丹念に塗り潰してゆくここち……。──あまさずに。征したときの──…。
 似ているのだった。煮沸も、盤も──その、なにか、言い知れぬここちが。そこには──うしろめたい悖徳も……、すこしだけ、含有される。
 かつて──…。たわむれに、おさなかった女のかおに白粉を塗った日のことを、ふとかれは思いだす。
──あの、池底のかげりのようなこころよさ……。
 盤も。煮沸も。化粧けわいも──…。いっそ酷なくらいに。それは、もとあるものを造りかえ、塗りかえる──…。その本質を有するように、かれは、おもった。
──すこしだけ、似ていた……。
 じぶんの腹の下になり、かれのねこ・・がいる昂りに──…。

──取り込んだじゅうたんが、腕の中でかっかとしている。
 いつのまにか、鼻うたは止んでいた。天日によってぬくさを越して熱くなったじゅうたんを、ぐるりと巻いて抱え上げ、おとこの脚は大股にわか草の庭をゆく──…。
──石かなにかに躓きかける。
 あわてることなくもちなおし──、かれはまた、白い鼻梁で音律だけのうたをなぞった。
 うしろすがたの耳介の色は、頭の布に覆い隠され定かでない……。
──けれど、その声はすこし上ずって、いじらしく音を外した。









 せんたくもの って えっちだ………(などと供述しており)

 書き込み過ぎ……。でも書き込みが好き……。だがしかし読む時にはストレスになる……。

 読感のストレスなき文章とは──…。

 文章全体も 自分の書きたい好きな部分も そんなふうに書けるよう 精進します……。
 バランスよく……。ストレスなく……。目滑りしない文……。
とは──…。
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