青い空。吹き抜ける柔らかな海風。
くるりくるりと、高所で輝く陽光の色。踊るように回転するそれ。
危ないからやめなさいと、何度言っても聞きやしない。今日も今日とて、慌てふためく船員の声をものともせず……奴はマストへよじ登る。
降りておいでと、そう必死に叫ぶクルーたち。手に手に菓子やら光り物を持ち……それをしゃかしゃかと振り回しながら……あの名前を口にする。無謀な木登りをする子猫を呼ぶかのような……大の男の集団。
「すっかり元気になりましたね」
右へ左へ大騒ぎする甲板を眺めつ、船医の老爺がのほほんと笑う。
「……元気すぎやしないか…」
その脇で、呆れ果てて空を仰いだ。視線の先……馬鹿丸出しがぶんぶんと手を振ってくる。当然無視した。
むきになって跳ねる肢体が、瞬きののちにぐらりと揺らめく。
次の刹那、悲鳴のような野太い叫び。ちらりと見れば、濃い男の集団。揃って口に手を当て、女のように絶叫している。
……すぐ脇で、どぼんと水柱。降り注ぐ飛沫に苛つきながら、浮き輪を放った。
……ややあって、ぷはりと浮かび上がる……幼げな顔。かつてと違って、身の丈はすっかり伸びたのに……その顔は未だ子供のようだ。生来の造形がそうなのか、はたまた本人の気性を写してなのか……
しばらくふわふわ浮いた肢体が、ぽかんと辺りを見る。間抜けな猫のように。
浮き輪に掴まったそれが、きょろりとこちらを向いた。……途端に、ぱっと輝くその笑み。
「ドレークー!」
せっかく浮き具を持ったのに……その手をめちゃくちゃに振り回すものだから。……飛び上がって離れる輪。そうして、当人はまた海の中。
……再び、男どもの甲高い悲鳴。先を争い飛び込むむさ苦しさ。
すっかり嫌気が差して、一人自室へ踵を返す。
「……待っていてあげないのですか?」
笑うような船医に、憮然と答えた。
「………勝手に追ってくる」
後ろ側で、びちゃびちゃと水の音。
おやめなさいと叫ぶ……女々しく野太い声の数々。
……以前までは……こんな気色の悪い奴らではなかったというのに……
嘆息する間も寄越さず、べちゃりと背中へ湿った物体。構わず歩けば、ずりずりと引きずられつも纏わり付いてくる。
「落っこちちゃった!」
「……そのまま魚餌になるものかと」
「心配してよー」
自身はおろか、こちらの服まで濡らす大馬鹿者へ。くるりと向き直り。
にこにこ笑う陽光の髪へ、そのままごつんと拳骨を落とした。
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