生存報告+SS
2016/03/05 00:25
まなざしは、この身を刺し抜いて。……刃と同じ硬さのまま、なにも見取らず冷光する。
鋭利な音でもしそうなふうに、萎縮を誘う強い眦。包含されるは音のない、威嚇のこえ。
……愛でるつもりが、しゃあと鳴かれてたじろぐように……この身を引かせる響きだった。……いつもならば。
けれど、にらむ、ということは……
……すなわち、相手を下から見上げる格好なのだと。引きかけた指先のまま、ふと気がつく。
……そも、弱い獣が己を強大に見せんと毛を膨らまし、牙で唸って虚勢を張るのがそれだから。
……ちらりと、見遣った先。女の背丈と己のそれは、大して変わりはしない。……変わりはしないが、目線は幾らかこちらが上だった。
……そのことが、どうにも胸を満たす気がする。
鋭く尖った月影のいろ。突き刺さる視線は、けれど見仰ぐ格好だ。そう、まさに……道の上でふうふう唸る、弓なり背の猫と似て。
夢想のうちの、そのすがた……様相はさながら、大地に膨らみ毛羽立つ毛玉。硝子玉のまなこの先、そこにはきっと敵がいる。……自身より、おおきくつよい生き物が。その身の生き死にさえ、転がされてしまいそうに……こわいいきものが。
「……なあ、」
……一歩、近寄れば。結ばれた口がすこし開いた。
ほんのり見えた白石は、紛れもない唯人のもの。幾らか尖った八重歯さえ、獣のそれとは程遠い。
……けれどなお、唸るように息を吐く。
「どうしたんだ」
つぶやいた、この頬のちかく。……表皮の上で、口角の上がる気配。
……自分がわらったことに気がついて、ますますたのしくなるような。
……また、一歩。足を進めてみる。……この女を、追い詰めてみる。
「……来るな」
後ずさり、はじめて相手が呟いた。低く、わずかに嗄れたような……まさしく威嚇のおと。
……構わず寄れば、退がった背中が壁につく。
刹那、ぴくりと。
女人にしては広く……けれど、男に及ばぬ肩が揺れた。
「……逃げるな」
するりと素早い獣のような。猫とおなじく捻れた背骨へ、刺し抜くふうに声を絡める。びくっと動いた骨肉の横、左右へ諸手をばしんと突いた。
……ざらりと乾いて折れずに硬い、古板の感触。
「逃げるな」
吐いた呼気、女の睫毛が僅かに震える。しゅうと、歯列を通した返しの吐息。……互いの頬に、なま温かいしめった風。
翳ってかがやく吊り雫。……激しい色に燃えたそれが、耐えかねたように下を向く。退路を断たれ、けれど諦め悪く視線は泳いだ。
「……よせ」
「なにをだ?」
問えば、逸らされた目に……ますますなにかが満たされる。何のゆえかも考えず、ただただ口は気味良く歪む。……声は、あおい耳介の近くでわらう。
集音部、そこから耳朶の縁まで。血の気に欠けて、まるでなにかで造ったような……まろくも締まった輪郭と、隔壁のかたち。……鼓膜の外側。
そこへ、このくちびるのつきそうな……
……息を吐くたび、下方の肢体はびくりと揺れる。追い詰められた、哀れによわい獣とも似て。
「……どうしておれから逃げるんだ」
「……逃げてなんか…」
いない、とふるえた声のあと、壁から片手を顎へ移す。がちりと捕らえ、強いてまなこを向けさせた。……こまかく振れる、眼球の一色。
「……ほら、そうやってしらばっくれる」
「……そんな、つもりは…」
「まだ言うか」
頬を掴まえ、固められ。女ははじめて……ようやく、真の意味で……こちらを、見た。
■`ゝ´)<おわれ)
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これ猫の日(2/22)に使い回してれば良かったのでは……?(かなり後悔)
ペルさん壁ドンなんてできるの???
金的いかないってことはぐんりちょ的にも負い目があるのか。どういう状況かなんてこっちが教えて貰いたいですチャカさま。 ■`ゝ´)<知るか)