SSS『おもかげ』
2015/03/06 11:37

私たちはうんと小さな、記憶にないくらいの頃からちょろちょろチャカの後ろを付いて回っていた。
私とは、三つ。彼とは二つ違いのチャカは、私たちの兄さんみたいなものだった。

私たちはチャカの真似をして遊び歩き、チャカの真似をして木刀を振って、チャカの後を追って軍に入った。
幼い頃の"かっこいい"遊びと言えば、チャカの真似だった。

だからだろうか。
ペルを見ていると、時々ふとチャカの面影が重なる。

頭を掻いたり、顎に指を添えて考えたり、人のことをやたらと子供扱いしたり。
本当は頭に血の上り易い癇性持ちの癖に、怜悧で冷静な風を装って。
のらりくらりと立ち回る器用さも無い癖に、そんな顔をして。

みんなチャカの真似っこだと、私はくすりと笑った。


「……何だ、急に。…どうかしたか?」


唐突な笑い声に、隣で寝ているペルが怪訝そうに聞く。


「いいや…何でもないよ」


それに首を振って答えれば、一層不思議そうに首を傾げた。

弟は、常に兄の面影を追っている。
そんなことを言えば、意地っ張りの彼が怒るのは目に見えていた。
褥でチャカの話なんかしたら、嫉妬されて面倒臭いだろうことも。

だから私は黙って、隣の常にはターバンの下へきっちり纏められている。しかし今は緩く崩れている、日に焼けた鳶色の髪を撫ぜた。

そうすれば、相手はこちらの腰を引いて。
彼の厚い胸板と、私の胸とが裸体に触れ合う。
筋に負けて、薄い己が乳房は、相手のそれに容易く押し潰された。


「…………」


無言のまま、額に口付けられ、頭部を覆うようにして抱き締められる。
耳の近くから、穏やかな彼の呼吸音が聞こえた。
またその髪の毛をそっと撫ぜながら、私は思案する。

この甘えたがりは、誰に似たのだろう、と。


「………ペル、」

「…うん?」


暗闇から相手の耳介を探して、そっと囁けば眠そうな声。
またぎゅっと体を掻き抱かれて、私はまた笑う。

宮殿では何時も、肩肘を張って立派な風に振る舞う彼は。
少年のような今のそれは、全てが彼の素の表情で。


「………なあ、ペル。わたしはね、」


弟は常に、兄の面影を追っている。
全ての弟は、兄への劣等感から出発するという。

……でも、


「…わたしはね。癇癪持ちで、焼き餅焼きで、びびりで、甘えたがりで……どうしようもないおまえも、嫌いじゃないよ」


眠そうな声が憮然と、「何の話だ」と聞く。
私はまたひとつ笑むと、黙って彼の硬い首元へ。己の顔を、うずめた。





(愛したのは、不器用なあなただけ)





****

ペルさんはいつもとても冷静で、大人な人ですけれども、一度激昂すると止まりませんよね。
対するチャカさまは、限界まで感情を抑制する。
そんな二人を見ていると、常の落ち着いたペルさんはチャカさまの真似っこのような気がして書きました。

軍吏長も偉そうに観察していますが、きっと本人も無意識にチャカさまの真似をしているんだと思います。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -