SSS『Happy Valentine's Day!! 2』
2015/02/14 00:00

私は今、人生の岐路に立っている。

道は私の前で二股に分かれている。
片方は地獄、もう片方も地獄だ。
つまり、私の人生の閉幕は近い。


「さあペル、昨日徹夜して作ったんだ。遠慮せずに食べてくれ」


辺りは異臭に包まれていた。
鼻を抑えながら、はははと乾いた笑い声を上げてみるが。
相手は一向に気付く様子もなく、常には無表情なその顔からは信じられないくらいに穏やかな面持ちで、白磁の皿をこちらへ手渡す。
否、白磁であった皿、だ。
今、繊細な模様が施されていた美しいそれは、無残な血飛沫のような何かにべっとりと覆われ、異臭の只中にある。


「……ほ、ほう。一人で菓子を作ろうとしたのか…偉いな……」

「うん、なかなか難しかったよ。少し失敗してしまったが……おまえにやるよ」


少しどころの失敗でここまで危険な産業廃棄物…いや謎の物体を精製出来る人間が、果たしてこの世の何処に居るのであろうか。
此処に居る。

おまえは天才だなと掠れた声で言えば、揶揄うなよとらしくもなく照れていた。
照れるな。
褒めていない。


「………食べないのか?」


少し不安げな顔で、相手はこちらの顔を覗き込む。
そんな顔をしないで欲しい。
これが食べ物でさえあれば、おれとておまえからの贈り物は即座に平らげただろう。例え、それが消し炭だとしても。

おまえが消化できるものさえ作ってくれれば。

そんなことはとても言えず(言った後の相手の反応が恐ろしい。それこそ命の危険を伴って)私はただ曖昧に微笑んだ。

右へ行っても地獄、左へ行っても地獄である。
そうなれば人間、焼けくそになるのが当然であろう。

私は笑みを顔に貼り付けたまま、白磁だった…今はどす黒い皿を手に持つ。


「ありがとう。とてもうまそうだ」


棒のように平坦に言えば、相手は幾分嬉しそうに微笑んだ。
私はその笑みを脳裏に焼き付けると、皿を一気に口へ煽る。


「!!!!」


その味を、言葉することは出来ない。
何故なら、喉が焼け付くように痛むからだ。

私は椅子から音を立てて崩れ落ちる。
薄れゆく意識の中で、最後に慌ててこちらへ駆け寄る恋人の姿を見た。


「……ありが、とう。…とても上手、に…できた、な……」


喉元を抑えながら、掠れた声で。私は言葉を何とか発する。
恐らく、これが私の遺言になるのだろう。
目尻をつうと、涙が伝った。

最期に、必死で私の名を呼ぶ恋人の顔を目に焼き付け。
私は、意識を手放した…



Happy Valentine's Day!!
(愛という名の毒薬)





そして三時間後に医務室で目が覚めた。
****



今年のバレンタインのアラバスタ勢の悲惨さよ…




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