SSS『傍らに、』
2014/11/22 23:52

月が、ゆるやかに昇ってゆく。


「たまにはこうしてゆっくりするのも良いものだなあ…」


露台の擦り戸を開け放ち、濃紺の空に瞬く星々を眺めながらぽつりと呟けば、隣で酒瓶を傾けていた恋人がぴしゃりと言う。


「ペル…おまえは呑気で結構だな…いつもは人にだらだらするなと煩い癖に…」


ぐびぐびと酒を飲む音の後に、酒臭い溜息を吐いた相手は、しかし安楽椅子の上でこちら以上に寛いでいる様子だ。


「おまえこそ随分だらけているぞ。…ほら、臍を出してごろごろするな。みっともない…」

「はあ…また始まった」


いかにも面倒だという顔でまた盃を煽る相手。再び酒瓶へ伸ばそうとしたその手をぱしりと弾き、取り上げる。


「…良い加減にしないか…いくら非番だからといって飲み過ぎだ」

「煩い。放って置け」


取り上げて高く掲げた瓶を奪い返そうと、あーだのうーだとの喚きながらこちらに凭れ掛かってくる相手は、ぎょっとするほど酒臭い。


「………おまえ、おれが帰ってくるまでにどれほど呑んだんだ…」

「…ちょっとだけだ。まだまだへいきだ。かえせ」


ふにゃふにゃと返された言葉は、呂律が上手く回っていなかった。
座椅子の上から覆い被さるようにのしかかられ、柔らかい肢体が身に触れる。


「…離れないか」

「いやだ」


酒精の所為か、いつもより幼いような口調。
本人は全く意図していないであろう体制は、己の胸板に相手の柔らかなそれを、ぎゅうと押し付ける形となる。


「…………、」

「かえせ、かえせ」

「…駄目だ」


内心どぎまぎしながらも、私は彼女から酒瓶を退け続けた。


「……なあ、ペル」


やがては、酒瓶を追い続けるのも疲れたのか。
彼女は露台にぺたりと座り、大人しくなる。


「…何だ」


その姿に此方も腰を下ろし、やや潤んだ目を見返せば。表情の少ない彼女にしては珍しく、へらりと笑みを浮かべた。


「ずっと、こうしていられるといいな」


そう言って伸ばされた手は、己の指に絡められる。
酒の所為か、いつもより熱い体温。


「……それは、どういう…」


一層高まる胸を抑えながら問うと、相手はまた笑った。


「…こういうことだ」


くすくすという声が耳元で聞こえたと思えば。
彼女に体を預けられ、手を背中に回されている。


「………っ!」


普段の天邪鬼な相手からは、想像も出来ない素直な行動。
それは、彼女が酔っていたからこそ出来た芸当だろう。
この行為には深い意味も考えも無く、ただ自分は、酔っ払いに絡まれているだけなのかも知れない。

だが……


「……そうだな。ずっと、こうしていられればいい…」


その背中にこちらも手を遣り、身近に引き寄せる。
そのまま頬へ口付ければ、ふふんと得意げに笑われた。





(ずっと、共に在らんと)




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ずっと。
片時も離れず一緒に居られれば、良かったのに。




シリアスよりはほのぼのが書きたいなーと思ったので、夫婦時代ではなく恋人時代の二人を。




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