SSS『1103』
2014/11/03 21:19

「…皆…良く集まってくれた………」


暗幕で仕切られた薄暗い部屋の中、低い女の声が響く。


「……これは一体何の集まりだ、軍吏長。予算会議かと思ったが…何故、幼いビビ様までいらっしゃる…?」

「いい質問だ、チャカ。…ビビ様に於かれましては、此方までご足労頂き、誠に有難く存じ上げます」

「いいのよー!」

「何だかろくでもない予感がするな…」

「ペル、黙れ。」

「痛! 文鎮投げた奴誰だ!おまえか!」

「ちわげんかー!ちわげんかー!」

「煩い。余計な口は挟むな。…ビビ様も、覚えられたばかりの言葉をやたらとお口になさられてはなりませんよ」

「はーい!」

「ペル、邪魔だ、どっか行け。」

「何だと…!」

「………お前ら、無駄な喧嘩はせずに本題に戻れ。」

「…ああ、済まん、チャカ」

「……相変わらずおまえはチャカにだけは素直なんだから………」

「フーフげんかー!フーフげんかー!」

「ビビ様………」

「はーいごめんなさーい!」


「………此度、ビビ様を含みました皆に集まって貰ったのは他でもない…」

「…一体何だと言うのだ………」

「チャカ、おれはとてもろくでもない予感がするよ…」

「…本日は11月3日……」


「つまり! いーおっさんの日です!!」


「、」

「……あーやっぱり」

「…ビビ様、ありがとうございます」

「……何なんだ、どういうことだ…」

「おれ帰っても良いか、軍吏長」

「チャカ、ペル、黙れ! この会合はビビ様直々の御命令である!控えよ!」

「………!」

「……はあ…(今日の夕餉は何かな…)」

「……では、静かになりましたので、ビビ様…どうぞ」

「ありがとう! あーあー、ほんじつみんなに集まってもらったのはほかでもないわ! きょうはいいおじさんの日! だから、なにかやらなきゃ気が済まないわ!」

「ビビ様は、祭事がまこと、お好きでいらっしゃいますな…」

「えへへー!」

「はあ…」

「はあ…」

「いいおじさん!おじさんと言えばパパとイガラム!」

「つまり、此度の会合はビビ様ご主催の、国王とイガラムさんをお褒め称える事が目的のものである…!」

「「……はあ…」」



****



「…褒め称えると言っても、何をどうすれば良いのだ」

「チャカ、またいい質問だ。…兎に角何でも良い。あの御二方の素敵な箇所をお褒め差し上げるのだ」

「軍吏長、このあとおれは軍議があるんだが」

「ペルは黙れ」

「おまえな…」

「フーフげんかはダメよっ!わんわんのチャカも食べないわ!」

「……申し訳ございません、ビビ様」

「ビビ様、私どもは夫婦ではありません」

「…ビビ様、私は犬ではなくジャッカルです。」

「とーにーかーくー! 一人づつ、あの二人の良いところをいっていって! はい、ペル!」

「…えっ……それは…」

「パパの良いところは!」

「…ええと…とても……ユーモラスな方で…」

「イガラムの良いところは!」

「…ええと…ええと…とても……ユーモラスな方で…」

「オッケー!次、チャカ!パパの良いところは?!」

「国王様は他国より名君と呼ばわれるほどのお器、まこと素晴らしい政の手腕をお持ちかと」

「つまんない! チャカはいいや!」

「………面白さを求めてらっしゃるんですか」

「…ふ、ビビ様のお求めになるお答えを導き出せぬとはまだまだだな…チャカよ…良い、私に代われ」

「…………、(帰りたい…)」

「はーい!じゃあ次! パパの良いところは?」

「は、実に娘御であるビビ様をご寵愛なさっておられ、その溺愛ぶりたるや、ビビ様がお外へお出になられるとあってはイガラムさんと結託し、王城を抜け出し官吏に大迷惑をかけるほど………」

「おい、おまえ私怨篭ってるぞ」

「確かに迷惑だが…」

「パパもイガラムもしつこくっていやになっちゃうわ! うふふ、でもいいわ、二人ともわたしがだーいすきなのよね! あつくるしっ」

「…ビビ様…国王とイガラムさんが泣いてしまわれます…お口にはお気をつけを…」

「ペルうるさい」

「ペル黙れ」

「、」

「………そうですね…それと義父上…イガラムさんの良いところ…ううむ…沢山ありますが、やはりペルの言うように実に剽軽な方です」

「へー、どんなふうに面白いの?」

「そうですねえ…義父上は…………

あ、女装癖がおありです」


「?!」

「は」

「じょそーへきってなーにー?」

「ビビ様、女装癖とは…おのこがおなごの召し物をムグムグ…」

「こら!おまえ!ビビ様に何を吹き込もうというのだ!」

「………イガラムさん…まさかそんな性癖がお有りとは………」

「チャカも真に受けて蒼白になるな! そんな事が事実な訳ないだろう…全く冗談も大概にしろ…なあ?」

「………いや、冗談ではないが」

「えっ」

「…えっ?」

「?」



****



扉の外.

「ねーイガラム、なんか私あんまり褒められてない」

「…国王…そんな事より私の尊厳が…!」

「あー女装癖のこと? べつにいーじゃん、もうバレちゃったんだから」

「ちがいます! 女装癖なんてありません!!」

「……どうだか…」

「何だと国王コノヤロー!」

「うっさいなビビちゃんに暑苦しいって言われてこちとら傷付いてんだよ、慰めろ」

「うっさいわ事実暑苦しいでしょう」

「お前は暑苦しい上に女装癖だもんね、気持ち悪いのー」

「何ですって!!」



1103
(愛すべき、砂の国の中年たち)




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ハロウィンよりおっさんの日に力入れて書くとか自分も大概おかしいと思いますが…ま、いいや。
砂の国のおっさん達大好きです。




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