「奥州の政宗様が正室を娶られた様ですよ」

「・・・それは知っておる便りが来た」

「兄上は室を娶らないのですか?」

「正室など・・・は、は、」

「破廉恥ですか?」


名前はおかしそうにクスクスと笑った。幸村は女子が苦手だ。それを分かってからかうのだから、堪ったものではない。

女子が苦手の彼だが、唯一触れても話をしても大丈夫な者が居る。

名前とは幼い頃からよく遊んだものだし、夏になれば川へ泳ぎにも行った。今は覚えていないが、子供の頃は風呂へも一緒に入れた。


「あ、旦那旦那〜姫さん知らなーい?」

「む、佐助」

「あ!」

「・・・ってあー!姫さん!花の稽古逃げ出したでしょ?!先生帰っちゃったよ!」

「あにうえ〜」

「名前は花の粉が苦手なのだ、今日の所は仕方ない」

「仕方なくないっての!」

「それよりなんだ?佐助」

「大将がお呼びだよ。姫さんもね」

「・・・私も、ですか?」


彼女はある日、突然に出来た妹。ただ、母違いで在るだけで対して珍しい事でも驚く事でもない。

昔、幸村が生まれて間も無い頃、父は美濃の国で名前をこさえた。

幼い頃は母親の元で過ごしていたのだが、その母親が流行り病で死んでしまったらしい。往く当てのない彼女を引きとったのが父なわけだ。

突然出来た兄弟と言えど、幸村も彼女も同じ父の血が流れている。そうだ、家族なのだ。

そう、妹、真田家の、・・・・・・。




「名前を、・・・でございますか」

「そうじゃ、竹中が折れた。やっと同盟を組む気になってのう」

「・・・竹中様・・・?」


武家の子供や奥方はそういった目に合う事が多い。そうだ、彼らは道具の様な物だ。国の為と言えど仕方がない諦めろ、と。そういう事だ。

それは幸村自身も経験した事はある。しかし、名前を・・・。


「お館様!某はその願い取り下げて頂きたい!名前を一人でそのような目には合わせとうござりませぬ!」

「しかしのう、幸村よ。この同盟に至るまで幾年掛かったと・・・」


彼女は心ここに在らずで、不安げに眉を下げ、畳の目一点をじいと見つめていた。こんな話、関係ないだろうと思っていただろうに。幸村もそうだ。そんな話ずっと関係ないと思っていた。


(某は正室を取らぬ)


名前さえ側にいてくれればよいのだ。きっと、名前は寂しがる!某から離れるなど・・・!


「お館様!ならばその同盟、この幸村が自力でもぎ取って来ましょうぞ!」


国同士や武家同士の繋がりが、どれ程大切なの物かは承知している。それに漕ぎ付けるまで、多くの時間や金や人力が掛かるのかも知っている。

しかし名前だけは駄目なのだ、名前だけは。

幸村は今すぐにでも美濃の国へ行ってやろうと、片膝を立てて見せた。すると、ずっと畳を見つめていた名前が幸村の着物を掴んだ。


「兄上、あちらが承諾しているのに・・・。無駄に戦力を使うものではありませぬ」

「しかし!」

「私は大丈夫です、お館様、話を進めて下さいませ」

「な」

「そうか、流石昌幸の娘じゃ」

「な。何を、名前!」

「兄上、今生の別れではありません。私は直ぐに戻ります」


名前は笑いも戸惑いも不安も見せない表情で、小さく大丈夫だと呟いた。


(そんな!)


じたばたと暴れて止めさせたい。けれど、男のくせにと歯止めが利いた。


(お主が大丈夫でも、某は違う!)


東アジアにおける「人質」は約束の証拠である。王権間の特別の修好結縁に際し、「盟」約にともなう国際的儀礼の一環として、王の近親の者を一時期提供する。




東アジアにおける〜する。
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