弐
いつからそう思い、このような目で彼女を見るようになっていたのか?
彼女はいつも幸村の側にいた。彼が自室で槍などの手入れをしていると、彼女はそっと部屋に入って来る。そして少し距離を置いた場所へ腰を下ろして庭を眺めて居るのだ。
一人が嫌なのか?それとも自分を其れほどまでに慕っておるのか。
(・・・・・・・)
彼女の背中を見て居ると柄にも無く、沢山の言葉が浮かんでくる。
ああ、彼女の近くにある物全て映す物は、照らす物は。何故か彼女を美しく見せる。そう、この世のすべての物が自分からすれば彼女を見せる為だけの演出なのだ。
太陽、月、星、雲、青、白、言葉、空気、緑、そしてこの空間。全てが彼女のおまけにしか思えなくなる。幸村の目の玉は、いつから可笑しくなってしまったのか?
・・・医師に見せれば、治る物なのか?
「兄上、それのお手入れは終わりました?」
「あ、ああ。終わったぞ」
磨いた槍をブン、と一振りして手入れが終わった事を示すと、部屋で振り回すと危ないと彼女は苦く笑った。
「暇なのか?名前」
「はい」
「・・・たしか、花の稽古の時間だった筈では?」
「逃げてきちゃいました」
名前は「えい」と小さく掛け声を出すと、幸村へ向って赤い手毬をポン、と投げた。手毬は力なく地面につき、ころころと転がり彼の手の中へ。
「佐助にまた小言を吐かれるぞ」
「そしたら兄上、助けてね」
「・・・・・・」
彼女へ毬を投げ返そうとして留まる。彼女はよく分かっている。
そうお願いをされたら、大きい事も小さい事も、某は断れない事を。
実の妹に対して、人には言えぬ想いを抱えている。そう、言えぬのだ。小声で胸の中へ話そう、某は彼女の事を。
秘密だ、秘密だ。
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090824
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