それはとてもよく晴れた、暖かい日だった。

縁側で幸村は、赤いそれを手の中で何度も転がしていた。カラカラと乾いた音を立てる手毬は、晴れた日に外へ出すと銀の刺繍に光が反射しキラキラと輝いた。


「旦那ー」

「ん?」


すると突然、天井から佐助が舞い降りて来た。佐助は少しだけ目を輝かせ、幸村に白い紙を差し出した。


「文、美濃から」

「誠か」

「姫さん元気かね〜」


嬉々とした佐助の様子に、幸村は笑みを溢す。美濃から知らせが来たのは久しぶりだった。


「あ〜姫さんが嫁に言って一年も経つのか」

「・・・・・そうだな」

「はい、早く読んで聞かせてよ」

「うむ」


幸村は佐助から文を受け取ると、その文を一字一字しっかりと読んで行く。そして全て読み終えると、晴々とした顔で文を元の形に折り直した。

その晴々とした幸村の顔に、きっと良い事が書いてあったのだろうと佐助は予想する。


「なに?なんか良い事かいてあった?」

「ああ、佐助も読むと良い。名前は元気だ」

「ほんと?どれどれ」


佐助に文を渡すと、幸村はすっと立ち上がった。佐助は文を開きながら幸村を見上げる。


「今日は天気がいいでござるな、ちょっくら遠乗りしてくる」

「ん?ああ、なら待って俺も・・・」

「よい、一人で行ってくる。夕刻までには戻る」

「そ、気を付けてね」


幸村は口に笑みを浮かべていた。それを見て佐助がひらひらと手を振る。

何ら変わりのない日常に知らせは舞い込んだ。幸村は何時もと変わりのない様子で城兵に声を掛け、馬を出す。

幸村は懐をそっと撫でた。そこには丸い感触。


(もう、必要無い)


馬をゆっくりと歩かせるれば、初夏の暖かい風が髪を撫でた。とても気分がいい、どこまでも走っていけそうだ。


「旦那旦那ー!」


すると、佐助の声が幸村の名を呼んだ。馬の歩を止めずに振り返ると、門の所で佐助が文を旗の様にバサバサと降って居た。

佐助は嬉しそうだ。ああ、大丈夫だ。自分も嬉しいものだ。


「おめでとー!」

「ああ!」


幸村は佐助へ手を振り、そして手綱を力一杯引いた。馬は勢いを付けて地面を蹴り出す。

名前が嫁に出て随分と月日は流れた。沢山の問題や葛藤は、時間が流れれば嘘の様に静まり返る。今は静かだ。そして、とても穏やかだった。

名前が子を孕んだ。その知らせは自分にも、そしてこの土地にも良い知らせだ。

そして、全てが終わったのだろう。


「もう、会う事は無いでござる・・・達者でな」


幸村は懐へ仕舞ったそれへ、そっと話しかける。

もうこれはいらない。この胸には、たしかに彼女への想いが息をしている。死ぬ事はなく、ずっと生き続けている。それで十分だ。

ただ、時々ふと、彼女が妹でなければどんな人生を歩んでいたか。それを考えて胸が苦しくなる。

赤い手毬の銀の刺繍は、光を反射してチラリと輝く。






















END

100209
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ありがとうございました。そして幸村スキーの方々、・・・本気ですいません。


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