「ああ、くそ!!」


力一杯に手綱を引くと、それに応えるかのように馬は大地を蹴り土埃を上げた。爆発しそうな叫びを全て込め、バシンバシンと手綱を振る。

あの広い城は、この想いを吐き出すには狭すぎた。幸村はああ、やら、うう、と時折叫びながら山道を駆け抜ける。

こんな姿誰にも見られたく無い。誰も居ないこの場所で、彼の叫びを聞くのは木々達だけだ。


「何故!」


喉が震え心臓が高鳴る。聞こえてくるのはごうごうとした風の音と馬の足音、それに自分の荒い呼吸だ。

己に何度も問う。何故、実の妹に邪な想いを持ってしまったのか。何故、ただの兄と妹になれなかったのか。

自分は突然出来た妹に執着しすぎたのだろう。しかし、日が経ち気付くと、一番身近に置いていた妹と言う存在はじわじわと自分を覚醒させていた。

喉から手が出る程に彼女が欲しい。きっと彼女も自分を必要としている。真田家の娘として彼女をこの地に染めたのは、他ならぬ自分なのだから。

何時か、自分は彼女を無理にでも己の物にしてしまうかも知れない。しかし、きっと彼女は拒まない。彼女も自分が必要なのだから。

そうして某は室を娶らず、世継ぎも残さず死んでいく。彼女も行き遅れだと世間に言われ、死んでいく。

そんな惨めな人生。彼女が居てくれるなら、それもいいと思った。


「・・・違う!違う!」


幸村は手綱を放し、頭を抱える。すると馬は鼻をぶるぶると鳴らし、次第に速度を落として行った。

胸の奥深くで、誰かが納得しろと言っている。妹を手篭めにするなど、いつの時代だ。それに自分は予感していた筈だ。彼女は彼の元へ行ってしまうと。

これでよかったのだ、そう言い聞かせる。しかし、頭は爆発しそうで喉から出る叫びは否定なのだ。

名前は幸村以上に、半兵衛を必要としてしまったのだ。悔しくてたまらない。彼女が他の男の元へ行くなど。

自分はまだまだ未熟で器が小さい。これ程身に沁みて思うなんて。嫌だ、行かないで欲しい。


「・・・・・・・・」


よくよく考えれば、妹を女子として見てしまったこの目がおかしいのだ。どうかしているのだ。

辺りは既に薄暗く、空を見上げると月が登り始めて居た。白い月が静かに自分を照らしている。自分にとってはあの月さえも、彼女を美しく映す為の演出でしかないのだ。ああ、やはり目がおかしい。


「名前・・・っ」


現実は残酷だ。名前を引き止めたい。

・・・こんな姿、誰にも見られたくはない。涙が出るのだ。この、おかしな目から。





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