卑怯者の懺悔 | ナノ




期限は一週間。その間は刀剣達の仕事量を減らした時のローテーションで過ごしてもらい、私は基本的な仕事以外極力部屋で過ごす。
言い分のある者は私の元へ、そして1週間後の同じ時間に結論を出してもらう。

それはお互い何も言うことなく、ただ沈黙の降りた部屋でこんのすけが下した判断だった。この1週間、自発的に審神者の元へ向かうことはあっても、彼女が自発的にこちらと接触することは最低限に制限されている。


「らしくねぇな」

昨日、あの後に審神者は管狐に言われるがまま政府へと赴いた。元々期限はしっかりと今朝から1週間と定められてたからには守るつもりだったが、話を聞いたらいてもたってもいられず。昨夜遅くにフライングをしようとした体をどうにかこうにか押さえ込み、朝食をかき込んですぐにここまで来た。


話し合いの翌日、1日目。まず最初に審神者の部屋へ足を向けたのは薬研藤四郎だった。


元々自分は刀解を望むつもりだったのだ。己の主は彼女だけ。けれど加州を、自分たちを手放しても構わないと言った彼女にこれ以上信頼を置くことが、今の自分には到底出来そうになかったから。
人の身とは難儀なものだ。自分はただの刃で、どんな人間がどんな風に自分を扱おうが関係ない。そんなものだったのに、今ではその人のようにここに在る。けれどそうなった以上、自分が感じる感情というものも蔑ろにしたくはなかった。

ともすれどその"理由"が自身の勘違いであったなら話は別だ。男として、1人の薬研藤四郎として頭を下げねばなるまい。

「……」

部屋が見えてきた。話し声につい気配を殺し、けれどそれに気が付かないまま部屋まで近付く。

「そう、分かった」
「はい。それから本日の予定は皆に伝えておきました。特に問題なく進みそうです」
「うん。ありがとう」
「報告は以上です。あと個人的にお尋ねしたいのですが」
「なに?」
「随分と部屋に物が増えておりますが、これは」
「別室に物置きにしてた場所があるでしょ?この1週間、活動も少なくなって空き時間も増えるかなって思って。少し整理整頓」
「成る程。ですが流石に量もありますし……」
「大丈夫だって。自分のペースでやるし、これくらいなら余裕です」

くすくすと小さく笑う声がした。紛う事なき大将の声。途端、どっと心臓が激しく鳴った。
こんな声は久しく聞いてない、暫く暗い顔でいた、そんなことも、昨日の話から推測できる理由も、浮かんだもののすぐに消える。

大将が笑ってる。

見たい、と。その笑顔がただ見たいのだと。心の臓がただそれを伝えていた。踏み出した足が大きな音を立てる。

「っ大将!!」

少しだけ開いた襖を押し開いて部屋へ駆け込んだ。

「や、薬研?」

管狐が小さく頭を下げて消える。こちらを見上げる大将の顔は不安と、それから恐怖が広がっていた。
違う、違うんだ。そんな顔をさせたい訳じゃなかったのに。ふざけるなと向けた鋭い声に彼女は竦んでいたのに、彼女はまだ何か言おうとしていたのに、1人にしろと突き放した瞬間、あんなにも、苦しそうな顔をしていたのに、

「……っ!」

座って、咎められるのを震えながら待つように不安げな細い体を目一杯抱き締めた。

「……ぇ」
「すまない。俺っちが、あんたを突き放したせいで。最後まで聞かずに決めつけて、」
「あ、ち、違っ……あれは私が」
「いいや。俺が、俺が悪かった」

体を離すとあ、とか細い声が漏れた。少し床から持ち上がった手が自分を引き止めるように見えてしまって、やっぱり自分には彼女しかいないのだと。

「きっちり謝らせてくれ。俺は確かにあの時あんたを突き放した。あろうことか大将を疑って、突き放したんだ」

がばりと頭を下げる。同じことを昨日、大勢の前で彼女にさせてしまったことが酷く悔しかった。

「すまなかった」
「っ、私も、ごめんなさい。私だって」

泣きそうになると口を閉ざすのが癖のようだった。昨日も今日も、涙も嗚咽ももらさないように息を潜めて。

「私だって、薬研に……」

話そうとするたびに声が震えてきて慌てて黙り込む。その様子になんだか微笑ましくなってきて、それから、

「なぁ、大将」

愛用の手袋は拭った彼女の涙をちっとも吸い込んではくれない。真っ黒なその上を透明な雫が流れていく。

「あんたの笑った顔が見たい」



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