卑怯者の懺悔 | ナノ


朝。
朝食をやはり別々に済ませた私は、けれども皆が朝食を取るのと同じ大部屋に座った。腰を下ろすのは普段案内されるがままに座る上座ではなく、そして目の前にはざわつく刀剣の神。
徐々に人が揃っていき、私へ向く疑心と困惑の視線が最大になった頃、ここまで事を大きくしてしまった私に協力してくれた和泉守が肩を、鶴丸が頭を、励ますように触れ、そして向き合う。

「、」

口を開いて一度閉じた。張り詰めた空気の中、こんな大勢の前で、話をするのは慣れてないし、これからも慣れることはないんじゃないかと思う。言うことはシンプルだ。落ち着いて、息を吸って……前を向いた。

「今日は集まってくれてありがとうございます」

手元には、鶴丸さんが来た日にこんのすけに用意をしてもらった刀剣たちの要望を聞くための用紙は無い。

「初めに、今までの私の言動で皆を傷つけたこと、不快にさせてしまったこと、謝らせてください。本当にごめんなさい」

頭を下げると同時に目元が熱くなる。拳を握って、それを耐えた。
眉間に皺を寄せる者、表情が読めない者、悲しそうな顔の者、どれも私のせいだ。座って真っ直ぐ私を見つめる和泉守も、壁に寄りかかりこちらを見据える鶴丸も、今は私の味方ではない。私ひとりでちゃんと進まなければなにも意味はないのだから。

「私がしてしまったことは分かっています。何が原因か、自覚している部分も……けれど、私が自覚していない原因も沢山あると思います。私の言い方が悪くて、誤解されてしまったことも……全部このままにしたくないんです」

大和守が無表情の加州に宥められている。宗三の視線は冷ややかだ。薬研も顔いっぱいに広がる不快を押し殺したような顔をしてる。けれど彼らはちゃんと私の話をちゃんと聞いてくれていた。

「私の良くなかった所は沢山あると思うけど、まず、あの時、私が他の審神者にって話をした時のことを話させてください」
「っ何度蒸し返すわけ」
「おい」

ついに大和守が立ち上がって大声をあげた。

「みんなにちゃんと話したいんです」
「それでも信用しないってこいつは言っただろ!嫌な記憶を蒸し返してまで言い訳したい!?」
「言い訳に聞こえても、ううん。これはただの言い訳かもしれないけれど。けれど私がどう思って、どういう意図でその話をしたのか正しく伝わってない人がいたって分かったのに、どうせ言い訳だからって言わずに終わらせたくないんです」
「っそんなのそっちの都合だろ……大体いきなり全員呼び出して話を聞けってさ!!」
「分かっています。でも、お願いします」

頭を畳につくまで下げた。途端に静かだった辺りが大きくどよめく。

「全部話して、全部聞きたい。そう思ってたのにしなかったのが、駄目だって分かったから。お願いします」

慌てたように頭を上げるように言う燭台切や乱たちの声が聞こえた。けれど大和守の声はまだ、聞こえない。

「いいじゃないですか。僕たちは主さんに比べて時間なんてひたすら持て余してるくらいですから。お互い言いたいことを言う。潔くて分かりやすいですよ」

堀川の声がした。ざわつきは止んで、ただそれに続く声を待つ。

「…………分かった」

座る音がして、ありがとうございますと呟き顔を上げた。

「じゃあ詳しい内容、こいつに話してる時席外して聞いてなかったんだから、全部、残らず話して」
「はい」

私がその案を提示した理由を改めて述べると、そこかしこから驚きを含んだ声が漏れるのが聞こえた。やっぱりそのほとんどが誤解だった。そう確信すると共に、誤解されたまま疑われぬ人格だと思われていた証明に少し胸が痛くなる。

「私は、誰も手放したくありません。そう思ったことは一度もない。ここに来て、こんな私を主と呼んでくれた人や、支えてくれた人達を……。でも、ずっと怖かったんです」

声が震えた。これではいけない、と深呼吸して整えようにも上手くいかなくて。暫く俯いて唇を噛み締めていると足元に暖かさがあった。五虎退の虎のうちの1匹だった。擦り寄るその子をひと撫でして少し慌てた素振りの彼の元へかえす。

「この本丸に来る前にみんなのことを学びました。誰に打たれ、誰の元でどうやって活躍してきたか。どれも素晴らしいもので、歴史に残る人に、歴史に残るような場所で振るわれてきた。戦について何も知らない、何の取り柄もない私が、貴方達の主としてやっていけるか不安だった」

秀でた才能もなく、朗らかな性格でもなく、武芸なんて別世界としか思えなくて、誇りもない。仮に初めは上手くいったとしても、私がどんな人間か知って、離れていきこそすれど慕ってくれる人がいるはずない。名義上の主だから、みんなが優しいからここに居てくれるだけで、本当は私が主であることを後悔しているかもしれない。
そんな不安は本丸が賑やかになり、より活動的になり、そして他の審神者達との交流が増えていくにつれ大きくなっていった。

「全部独りよがりで、何も努力してない奴が勝手に卑屈になってるだけでした。でも、変わりたいんです。だから、みんなの不満や私の良くないところを教えて下さい……私は、ちゃんとみんなと向き合うチャンスが欲しい」

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