卑怯者の懺悔 | ナノ




膝の上に置いた拳を握り締める。爪が食い込む程に力を入れてやっと、心臓を締め付けられるような感覚が和らいだ気がした。ここに来てすぐは慣れなかった正座も今ではすっかり癖になっている。

「お待たせしました、審神者様」
「……ありがとう」

こんのすけに頼んでいたのは文字通り、今回の対処法について。彼らは他の本丸へ送り出せるか、私はどうなるか、その手続き方法諸々。

「加州清光とのお話はお済みですか?」
「うん」

この状況から見れば分かる、駄目だった。全部伝えた。私が何故あんな話をしたのかも、本当は一緒に居たいって思ってたことも。けれど信じてもらえなかった。もはや私は、いや、ずっと前からかもしれないけれど、信用に足る人物ではなかったんだ。

「夕餉の後、全員を集めて希望調査を取ります」
「畏まりました」

みんなの希望を聞いて、その後は暫く手続きに時間がかかってしまうけれど、勿論私が関わる事はないのだならその邂逅が実質最後になる。とんとんと書類を整えて置くと、深く深呼吸をした。
何度も泣きそうになった。最初はこれからへの不安、次に私がちゃんとみんなの主になれるかどうか、そしてふとした過去の話で拭えない彼らとの壁を感じた時。けれど今は涙が滲むことはなかった。ただただ息苦しい。

「こんのすけ、夕餉の後にみんなを」
「茶を持ってきた。入っていいか?」
「っ、鶴丸……何か、あったんですか」
「ははっ、可笑しなことを聞くな。茶を持ってきたと言ったろ?それとも来客中か何かだったか?」
「いえ……どうぞ」

おっ気がきくな、なんて。障子を開けると盆を手にした鶴丸がまるで初めて会った時のような顔で笑った。あ、やばい。突如うるっときた目を隠すように俯く。

「たまには縁側でのんびりってのもいいだろ?」
「はい」

促されるまま座ると傍に湯呑みを置いて、その反対側へ鶴丸が座る。間に盆を置くものだと思っていた私は少しぎょっとしたように目を見開いて、視線を前へ戻した。堪えるような笑い声がするのを察するに、どれもこれも全部ばればれらしい。恥ずかしくなって少し頬を赤くした。
縁側でのんびりするのは中々好きだ。審神者になるまでは無縁だったから物珍しかったし、存外景色も時折吹く風も心地よい。次第に誰かに会うのを怖がってあまりぼうっと座り込むことが減っていたからこんな時間は久々だ。

「ここに来たばかりの頃はよく君はこうして茶を飲んでいたな」
「、うん」

背筋がちょっと丸くなる。暫くの沈黙のあと、何度か足元と鶴丸の横顔をいったりきたりして、しかし何かを話す素振りがないものだから耐えきれず口を開いた。

「よく、知ってたね」
「何がだ?」
「お茶、ここで飲んでたの」
「そりゃあ知ってるさ。恐らく君がそうしているうちに本丸に来た奴は皆がここに来たがってた」

その言葉の意味を考えた。私といたって何も楽しくないのにここに来たがる筈ない。私に気を使った?どうして?年長者的立ち位置からしてか、若しかしたら他の手に渡るのが嫌なのかもしれない。もちろん配慮はするつもりだがそれでも新しい主となれば不安は残るだろう。鶴丸の出自を考えれば転々とする事自体好ましくないのかもしれない。

「……鶴丸さんは」

これからどうしたいんですか?
そう思って名を呼んだのに、私がそれを尋ねるのは間違っているように感じて口を閉じる。どうしよう、代わりに何を言えばいいか。

「おいおい、最後まで言ってくれないと流石の俺も分からないぞ?」
「鶴丸さんは…………その、……普段は、普段はどんな話を、するんですか」
「普段か。そうだな、光忠に夕餉はあれが食いたいこれが食いたいだの言ったり、だれをどんな風に驚かせてやったか話すな」
「そうなんですか」
「最近は数も増えたからな、中々に楽しいな。君も今度やってみるといい」

眉間にぐっと皺が寄り、慌てて戻した。今度なんてない、どうせその事を遠回しに言いたかったんだろう、そんな思いを振り払った。折角こつして話す機会が与えられたのに自分から空気を壊すほどの分からず屋ではないつもりだ。
今日は賑やかな声もない。短刀達はほとんどが出陣、内番を行っているからだろう。また黙りこくってタイミングを無くした私は誤魔化すように湯呑みに口をつけた。

「君に聞きたいことがある」
「…………はい」

風が凪いで、真っ白な髪が揺れる。浮世離れした美しさだ、彼は特に。とても恐ろしい。純真無垢そうな姿形をして、けれど私の醜い部分をしっかり見定められている。そう考えるたびに萎縮してしまう。

「君は加州を手放したくなかったのか」



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