卑怯者の懺悔 | ナノ


飯は食った。体調も落ち着いてる。ただいつものこう言っちゃ悪いが仏頂面が何やら意味ありげな顔をしてたもんだからつい、足をまたそっちに向けていた。
今、自分の勘はよく当たるものだと実感している。かけた声に振り返った大将が向かう先は刀剣の誰かの部屋。どこ行くんだ、なんて聞かなくてもわかる。

「……加州のとこ」

そういや加州の奴、嫌に静かだったと夕餉の場を思い出した。恐らくあの様子じゃすぐには寝付けないだろうと落ち着けるよう香でも持っていくか考えていたところだ。

「今日はそっとしてやってくんねえか」
「もう寝てる?」
「いや、起きてはいるが」
「乱ちゃんから様子は軽く聞いてる。このままにしたくなくて、早く話をつけようと」

大将が会いに行くのは、そう止めようとした時だった。話をつける、その言葉を聞いて刀解の2文字がふと浮かんだ。大将は加州の希望を聞くと言っていた、それはあり得ないと首を振る。しかしその旨は昼のうちに伝えた筈だ。なんで今になって。

「話をつけるって、どういうことだ」

そういう性分なもんで、そう疑問に思うとすぐにそれを口に出していた。みるみる歪んでいく顔に不安が募る。

「大将、場所変えようぜ」

頷いた大将を連れて行ったのは自室。ここなら大将がまた体調を崩してもすぐ対処できるだろう、そう思ってからそう言えばこの人を部屋に上げるのは初めてだと気付く。何かと何処かに居ることが多いが、それでも部屋を訪れる奴は多い。呑みの誘いだったり、誰かに呼ばれたり、大将との仲が世辞でも良好とは言えなかったせいか、怪我や不調を見てくれと言う奴もいた。寧ろ大将が誰かの部屋に居るところも、誰かの居る場所にとどまっているところも記憶にない。
目の前に座るのは暗い顔つきの主。女だからか、無口だからか、他の何かのせいなのか。何を考えているのか分からない。出陣に怪我がつきものだった当初の心配そうな顔を覚えている。けれど大将の態度は自分から見ても他の奴からしても距離を置こうとしているようにしか思えない。

「単刀直入に言うと、俺はあんたが何を考えてんのかわかんねえ」
「っ」
「聞きたいことが多すぎて話が纏まんねぇんだ。だからまずは、さっきの話をつけるってどういうことか聞きたい」

また顔が歪んだ。すぐにそれも俯いたせいで見えなくなる。なんで黙ってる。そんなに俺っちが信用ならないのか?それとも、人に言えないようなことでも企んでるのか。

「……言いたくないのか」
「……」

首が横に振られた。
少し静かに待つと、数度の深呼吸の後にやっと口が開かれる。

「加州がどうしたいのか聞いて、その内容について具体的に話を進めようと思ってます」
「具体的にってのは……他の審神者を捜すってことか」
「そう望むなら」
「出来るのか」
「はい」

自分、が他にもいて他の主の元で同じように戦いに身を投じているのは知っている。だからこそ態々他の本丸にいる奴を他の本丸へと飛ばすような面倒事を政府が許すのかと思っていたが、嘘はないらしい。
つまり本気で加州を手放すつもりなのか。初期刀として主の側に立ち、どちらかと言えば世話を焼かれるタイプだと思ってた加州が大将のためにと動くのを見てきた。あいつのためにと大将からかけられる言葉はないが、ここに置いてもらえていることを支えにやっていた筈だ。それを、

「……大将は、それでいいのか」
「いいよ」

即答だった。
俺たちは確かに至らないところがあったかもしれない。大将はきっとこんな戦に関わらず生きて、女らしく恋でもして家庭を築いていくことも出来たはずだ。なのに女心も分かってやれねぇような男所帯で家事を一から仕込んで、怪我して帰りゃ治して、喧嘩すりゃ宥めて、泥だらけになれば汚れを落とし。前の主を想い、過去に縛られた奴のために。
けれど、少しだって報われたいと思うのはいけない事なのか。確かに前の主を思い出す事もある、自分の最期に苛まれたこともある。それでもここに顕現した時にこの主に尽くすと決めた。自分なりに努力をしてきた。それでは駄目か?努力が足りない?それとも刀剣である時点で無理なのか。いいやそんなこと、

「みんなにも一度聞こうと思う、これからどうしたいのか。薬研も何かあれば今のう」
「ふざけんな!」
「……あ」

そんな理由で納得できるか。
大将は距離こそ遠かったが過保護なぐらいの方針に大切にされているの感じていた。俺っちはそんな大将の不器用さを気に入っているつもりだった。けれどもう、このままじゃいられない。



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