卑怯者の懺悔 | ナノ





鼻をかんで目元を擦った。遠征はいつも通り問題なく済んだため薬研が報告に来て、夕飯前にまた来ると部屋を出て行ってしまった。誰もいない部屋でじっとしていると誰なのか分からないくらい遠くだけれど楽しそうな声が聞こえて、憂鬱な気分が更に増していく。
私、そんなに酷いことしたかな。人でなしみたいな事をした事はない。けれど、私を主として認めたくないだろう要素は沢山心当たりがあった。

「ぅ、」

気持ち悪さが増して傍らのビニール袋を手にする。結局吐くこともなくごほごほと咳込んでいるだけに終わったけれど、それでも幾ばくかは楽になった気がした。
眠気も全然来ないからと体を持ち上げて障子をそっと横に押しやり外の空気を取り込む。薬研が来る前に戻ればいいだろうと縁側に座って足をぶらつかせると、ばたばたと足音が聞こえた。その足音があまりに近くから聞こえたもので驚いてそっちを見やった瞬間にふわりと揺れるスカートと長い髪が視界に飛び込んできた。

「あああ!!具合悪いのに体冷やしちゃダメでしょ!」
「み、乱ちゃん?」
「ほら、お部屋戻ろう」
「でも元々そんな酷くないし、全然眠くないから。ほら、外の新鮮な空気吸いたいし、上着着るからそれでいいでしょ?」
「じゃあちょっと待ってて」

立ち上がると私の部屋から適当な上着を取って被せてくれた乱ちゃんがそのまま隣に腰を下ろす。遠征の隊長を任せてたけれど報告は薬研から受けてるし、もしかしてお見舞いに来てくれたのかな、と胸が小躍りした。

「乱ちゃん、どうしたの?」
「具合悪いって聞いたから様子見に来たのと、あと……」
「あと?」
「清光がね、暗い顔してたから何かあったのかなーって」
「っ」

急に体がすっと冷えていくような感覚に陥った。私が部屋で大して具合悪くないのにころごろして寂しいなーなんてぬかしている間にも、

「加州が、そんなに……?」
「うん。それで気になっちゃって」
「……」
「もしかして何か知ってる?」
「……私、」

刀剣たちは基本的に真っ直ぐだ。さっきの和泉守も然り、不満があればぶつけてくるし、知りたいことがあれば何度も問うてくる。けれど、言葉にしてはっきりと答えたくなかった。加州が他の審神者の元へ行きたいと思ってるなんて。

「私のせいだよ」
「喧嘩?」
「少し、違うかな。私が悪いの。加州はそれを……怒ってるのか、呆れてるのか、分かんないけど」
「ふーん」
「……このままじゃ駄目だね」

分かってる。このまま、誤魔化したままでいることは出来ないって。それが曲がりなりにも彼の主、審神者たる責任だから。彼がどうしたいか、どうしていくか、はっきりさせないといけない。

「ごめんね、乱ちゃん」

もう部屋に戻るよ、と肩にかけてくれた上着ごと体を持ち上げた。夜ご飯食べて、それから、今日のうちに行こう。私の意を汲み取って立ち去った乱ちゃんを見送って部屋を締め切る。もしも加州が他の審神者の元へ行きたいと言った時のために調べ物をしなくては。だって私にもう、逃げ場はない。



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