卑怯者の懺悔 | ナノ




普通の人間だった。ある程度裕福な家に生まれて、人並みの幸せや不満に囲まれて育った。楽をするのが好きな気質。努力が嫌い。だからこそ、言われるがまま審神者という仕事を受けた。

「加州清光」

復唱すると、よろしくねと返ってきた。赤を基調としたどこか耽美な服装と、それを女性的に感じさせない不思議なアンバランスさ。端整な顔立ちに可愛く着飾って、なんて言われた瞬間思った。無理だ。
問題を抱えている刀剣達は、それが出自や前の主など過去に縛られたものばかりだった。それは生まれついたものと言っても過言ではなく、私が否定してもきっと届かない。加州に着飾らなくてもいいと告げても、山姥切に写しなど関係ないと諭しても、小夜に復讐ではなく幸せを与えようとしても、否定されるだけ。その度に信用されていないことを噛みしめるぐらいなら見て見ぬ振りをした方が楽だった。
他の3人はどちらかというと捻くれた部分はなく、しっかりしていた。少しだけ安心したけれど、元々人と接することが苦手な私は世間話なんかして一緒に過ごすというのも体力がいる仕事になってしまって、向こうが世話をしに話しかけてくれるのに甘んじて自分から近寄らなくなった。鶴丸に至っては、以前夜更けに驚かされたのが幽霊嫌いの私には凄く怖くて、少し怒ったら以降あまり肩をつつかれることも減ったように思う。
長々と語ったが、要は私は自分から踏み込む勇気のないコミュ障なのだ。今は審神者になったばかりだからと6人で過ごしているが、仲間が増えて彼らの兄弟分や過去を共有できる刀剣が増えれば更に一人ぼっちになっていくのだろう。
加州が喜ぶようなお洒落をさせてあげられたら、山姥切や小夜の心を解く器量があれば、燭台切や薬研と他愛のない話で盛り上がれたら、鶴丸と賑やかに笑い転げていられたら。そんな思いを振り払って、今日もまた仕事があるからと自室にこもるのだ。なんて不甲斐ない。



prev / next

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -