卑怯者の懺悔 | ナノ




「わっ」

角を曲がってすぐの事だった。視界を殆ど深く被った布で覆っていたためそれ程驚きはしなかったが、それでも小さく肩が跳ねる。この夜更けには殊更目立つ純白はただでさえ自分の気にしている部分を抉ってくるというのに、加えてこの性格。よく分からない奴だ。

「よお。山姥切もどうだ?」
「遠慮する」
「つれないねぇ」

手元の酒瓶を差し出すように揺らした鶴丸国永の誘いに首を横に振ると、さも残念そうに肩をすくめられた。

「にしても意外だな。今少し驚いてたろう。いつものお前ならすぐに気付くというのに、どうした。考え事か?」

言われてハッとした。大半のものが眠りにつき、起きているものも自室で静かに過ごす時間帯。歩みに合わせて軋む廊下の音に気付かぬはずはない。それ程考え込んでいたのだ、恐らくは、先の燭台切の言葉を。

「何でもない。俺はもう寝る」
「そうか」

いいや、そんな事はない。あの人は俺みたいな写しが気に食わないだけで、他の奴らには壁なんか作っちゃいないはずだ。加州清光はあの性格だからいらぬ事を考え気にしているのだろう。他の奴らも実力も出も総じていい。だが、

「……おい」

俺が足を止めたからか、声をかけたからか、向こうの月のよく見える縁側へ歩き去ろうとしていたそいつが振り返った。

「お前は驚かせるのが好きなんだろう」
「ああ、そうさ」
「あいつにも、同じようにするのか」
「あいつってのは、俺らの主のことかい?」
「……ああ」
「そりゃあ勿論」

それを聞いた途端ふと肩の力が抜けた。そうだ、俺の思っていた通りあいつらの考えすぎだったと。

「ただ一度酷く怒られたことがあってなあ」
「?いつも怒られているだろう、お前は」
「ははっ、まあそれもそうだ。が、あれはちょいと違ったな。確か今日みたいな夜更けにな、何時ものように驚かせてみたんだが」

鶴丸が柱に寄りかかり上を見上げた。いつもなら月光を浴びたその白から逃げるように顔を伏せていたのに、今は不思議と気にならない。話の続きを急かす不穏なほど煩い心臓の音に顔をしかめた。

「暫く反応がなくてな、どうしたのかと思って顔を覗き込んだら、おふざけも時と場所を考えろって冷たい顔で言われちまった」
「……」
「ま、相当驚いたんだろう。それで、それがどうしたんだ?」

何でもないとは言わせないという口調に暫し押し黙った山姥切は、ゆっくり口を開いた。

「主との間に壁を感じている、といった話を聞いて思うところがあっただけだ」
「へぇ、壁か。の割には深刻そうな顔だな」
「元々こういう顔だ。悪かったな……」
「そりゃ失礼した。そう拗ねないでくれ」
「拗ねてない」



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