卑怯者の懺悔 | ナノ




こんのすけが頼みごとを済ませてくれている間に部屋から出た。目的は言わずもがな加州だ。誰ともすれ違わないところから察するに出陣か遠征に出ているのだろう。

(私がいなくても)

慌てて違うことを考えようとした。こういう暗いことばかり考えては悪循環だと。次に浮かんだのも、その次も、ここにいるみんなのことばかり。

(仲直り、したいな)

けれど出来るのだろうか。加州が勘違いしているならその誤解を解きたい。そしたら薬研も。でもそこからはどうする?他のみんなは違う。誤解ではなく私を嫌っているか主と認めたくない人。
ふといつかの食事の場を思い出した。私が踏み入れた瞬間に強張る空気。誰もがこちらを見、瞬間逸らした。そして誤魔化すように近くに居る者とおかしなくらい高いテンションで会話を交わし、大袈裟に私に振ってくる。あの時点でもう。
そう思いながら角を曲がった瞬間に誰かと正面衝突した。後ろによろけた体でなんとかバランスを取って踏みとどまると目の前に立つ人物を見上げる。歌仙だった。

「ごめんなさい」
「こちらこそ、前を見ていなかった」

横をすり抜けるように立ち去ろうとすると待ったの声がかけられる。

「どこに行くんだい?」

その言葉に昨日の大和守を思い出す。

「なんで?」
「なんで、か……。そうだな、もしも居間の方へ行こうとしているなら君のためにも止めたほうがいい。加州の元へ行こうとしているならそっとしてやってほしい」
「そんなに、酷いんですか」
「逆だよ。彼はあれからいつも通りにやってくれている。たから心配なんだ」
「……わかった」

聞くたび聞くたび、誰かが私に傷つけられている。それも酷く。私はそんなつもりもなければそうしたい訳でもないのに、そう言ったら逆に自覚がないなんてタチが悪いと思われるだろう。
適当に返事を返して、けれど目的の場所はそのままに彼とすれ違った。追いかけてくる足音はなく、そのまま歩みを進める。今度は誰だろう。大和守……はきっと加州と部屋にいる。加州のことがきっかけで感情が溢れてしまった薬研、それか朝のことを考えて石切丸。加州に遊んでもらってきた短刀達かもしれない。
胸がざわついて緊張でお腹がぐっと重くなる。
目的の場所にはすぐに辿り着いた。昨夜と同じ場所に座って中に声をかける。

「加州はいますか」
「いないし、いても会わせないよ」
「加州と話がしたいんです」
「嫌だね」
「どこにいるんですか?」
「知らない」
「……ここで待っていてもいいですか」
「目障りだから帰れよ」
「帰りません。加州と話したいんです」
「っ、帰れよ!」
「ここに座ってます」
「だから、っ……!」

不意に背中から聞こえていた声が途切れた。足音、そして誰かが廊下へ一歩踏み出した。

「……加州、あなたに話があるの」




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