卑怯者の懺悔 | ナノ




ぼうっと頭上に広がる桜を眺める。
短いような長いような期間だったな、と感慨に耽った。

「おい」
「っ」

聞こえたのは和泉守の声だった。今度はこいつか、なんて顔で振り返ると、予想外にも和泉守は怒った様子もなくどすどすと側へ歩み寄ってくる。

「どうしたの」
「なっ、どうしたのじゃねーだろ」

ばふっと羽織を投げられ慌てて受け取る。相手が誰であれ病人を放っておけないあたり、彼の性分が出ているなとそっと笑みを溢した。けれどそのためだけに態々夜更けにここへ来る程お人好しではない事も知っている。

「私に話でもあるの?」
「……」

ここから彼を見上げるのは少し辛い。視線は桜にとどめたまま尋ねた。何か攻められるかな、それとも自分がどうしたいか話に来たのか。しかし聞こえた言葉は意表を突くもので、あっという間に視線は彼に持っていかれる。

「……悪かった」
「なんで、謝るの」
「体調悪かったんだろ」
「大したことないし、あれは本当に私がだらけてただけだから」
「そりゃ今までのが全部そうとは思えねーけどよ、今日のは少し、言いすぎた」
「……」
「けどよ、具合が悪いとかそういうのはちゃんと言ってくれ。俺は察してやるとかそういう遠回しなのは嫌いなんだよ」
「……ごめん。言うほどの症状じゃないと思ったから言わなかった」
「なら、いいけどよ」

沈黙が訪れる。早く、早く行って。私は1人になりたいの。今は辛くて誰かと話そうって思えないから。そこまで思ってまた、加州と薬研の顔を思い出して歯を噛み締めた。なのに和泉守は全然去ることも背を向けることもなく立っている。

「なあ」
「な、なに」
「あんた加州のことどう思ってる」

"ここにいる奴らは大将にとってそんなもんなのか……?"

「……大事だよ」
「ならなんで手放すだなんて言った」

薄着のまま目の前に和泉守が腰を下ろす。

「加州がそうしたいなら、私はその手助けをって思って」
「引き止めたくねえのかよ」

そんなの、引き止めたいに決まってる。けれどそんなこと言えない。

「あいつは初期刀なんだろ。お前のために頑張ってきたのを見てきたはずだ。俺が騒ぎ立てた時も真っ先にあんたを庇ったのはあいつだ」
「そう、なの……」
「お前はそこまで慕ってくれた奴に、ここに居て欲しいって思わねーのか」
「……私がそう思っても、加州は違う」

結局膝に掛けっぱなしのくしゃくしゃの羽織をきゅっと握った。

「加州は私に尽くしてくれたし色々助けてくれたけど、でももう限界なんだよ、きっと。だから他の審神者のところに行きたいって」
「おい、ちょっと待て」
「なに、私変なこと言った?」
「変も何も、あいつは他の審神者んとこなんて行きたがってねぇだろ」
「でも今日、他の審神者のとこ行きたい人はって話した時に」
「それはあんたが俺らにに他の審神者のとこ行けって言ったから怒ったんだろ」
「わっ、私は他の審神者のとこ行けだなんて言ってない」
「は?」
「私が主じゃ納得できない人がいるって思ったから、その人は言って欲しいって」

気付くと噛み付くように前のめりになって話していて、食い違う話に顔を見合わせる。もしかして加州は私が嫌いになったわけじゃない?私が誤解されるような言い方をして怒らせただけで、そうしたら、もしかしたら薬研も、仲直り出来るかもしれない?

「……私、加州のとこ行ってくる」
「飯食ってすぐ部屋戻ったから寝てるかもしれねぇぞ」
「でも行くだけ行ってみる。駄目だったら明日にするから」
「……」
「あの、和泉守」
「んだよ」
「ありがとう、私と話してくれて」
「別に礼を言うような事じゃねぇ。俺は主と話しただけだ」
「え……」

ふと目頭が熱くなった。

「、おい何泣いてんだよ」
「っまだ泣いてない!和泉守に主って……言って、もらえると思わなかった……」
「はあ!?」
「ご、ごめん」

そんな風に言われたら誰だって嫌になるに違いないのに、ついぽろっと零してしまった口を噤んで俯く。聞こえわた大きな声に怒られるかなと身構えた。けれど降ってきたのは言葉でも拳でもなく、髪をぐしゃりと撫でる手のひら。

「?」
「ったく、しゃんと胸張って行ってこい。俺らが早とちりしたのもあるけどよ、あんたの言葉足らずもあるんだぜ。早々に諦めんなよ」
「うん」

胸がふわりと暖かくなる。和泉守のその言葉がただの激励ではなくこれからを心配してのことだとはつゆ知らず、加州の部屋の方へと走り出した。


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