卑怯者の懺悔 | ナノ



「ん、」

目を擦り少しだけ障子を開ける。空は随分と晴れていて、明け方とは思えないほどの……

「何時!?」

バタバタと部屋の時計に駆け寄れば時刻はもう昼に差し掛かっていた。私が遅くまで寝ていることは珍しくない。私が眠たがりなのは今や周知の事実で、出陣の見送りもせず寝ていたことを謝っても気にするなと笑われてしまうほどだった。けれどそれは最近来た人は知らなかったり、知ってる人も不満があったりする筈。ああもう今日に限ってどうして、と頭を抱えた。
昨日の夕食の時の雰囲気は何となく感じていた。賑やかな食卓に書類で疲れていた顔が緩んでお待たせ、と中に入った瞬間に一瞬静まり返ったのも、顔が強張ったのも分かっている。ついにみんなに不甲斐ないと呆れかえってしまったのだろうか。
早々に部屋に逃げ帰って、けれど中々寝付けなくて。審神者、嫌われとか、審神者、不仲みたいなワードで検索をかけてみたり。

「最悪……」

あんな雰囲気だったからこそ見送り行こうって、打算的だけれども思っていた。徹夜しようか迷って結局寝たのが失敗だった。なんとなく、恐る恐る部屋を出た。出陣と遠征で、今本丸で待機しているのは鳴狐と乱のはず。珍しいけれど、でも少し安心できる。
賑やかさに慣れた今、寂しく感じるほど静かな廊下を歩いた。みんなが帰ってきたら聞いてみようかな、何があったのか。けれどそれがもし私への不満で、審神者を辞めて欲しいって言われたらどうしたらいいんだろう。辞めさせてくれるのか、辞めたところで刀剣に認められなかった私はどう思われるのか。考えたくない、聞きたくない。
ぐるぐる頭が回る。気持ち悪い。極度の緊張、気分が沈んで空虚感が広がっていく。
何かひとつぐらい才能をくれたって良かったじゃないか。センスがあれば加州にたくさんお洒落してあげれた。体力があればみんなと一緒に一日中鬼ごっこできる。頭が良ければ仕事も軽くこなして認めてもらえただろうし、料理が上手かったらみんなにお疲れって食事当番くらいできた。
みんなが余りに整った顔立ちで品があるからみっともない姿を見せたくなくて、背筋だとか喋り方とか緊張して疲れちゃうから結局1人のが楽だと引きこもりがちで。元々あまり口角が上がってないから笑顔でいないと怒ってるみたいに思われる。友達にしてたみたいな態度は長い年月を過ごしてきた刀剣達には子供みたいでくだらないってバカにされるかもしれない。嫌だ、認めて欲しい。見下されたくない。けれどきっとそんな小さな見栄を気にしているのは私だけ。だからこそそんな私知られたくない。何もしたくない、会いたくない。


「きょう、みおくりなかったですね」
「大将はだいぶ朝弱いからな」
「そうですけど……」
「そう暗い顔すんな。出陣前に刀装しっかりつける、刀装剥がれたら帰還。これだけ万全を期すように言われてるんだ。な?」
「ちょっとくらいけがしてもへいきなのに」
「それくらい大将が心配してくれてるって事だろ」

まるで誤魔化しをきかせて何とかしているような状況だ。何か訳があるだとか、悪い方向に考えすぎている節があるだとか考えている奴がいるのが救いだろう。とは言えど放っておいても悪い方向にしか転ばない。

(そろそろちゃんと話さないといけないかもな)

自分だって、気になってはいるのだ。大将が本当はどう思っているのか、何を考えているのか。



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