ばたばたと傘を打ちつける雨の音を聞きながらぼんやりと辺りを見回した。あまり人通りのない通りを足早に、荷物を胸に抱えて歩く人。傘を忘れてしまったらしくダッシュで私を追い越して行く人。私は長靴を履いて、水溜りも気にすることなく。ただ激しすぎる雨のせいでどうしても濡れたスカートの裾が嫌に冷たく感じた。
(早く帰ってお風呂入ろう)
足にまとわりつくような濡れた生地の感触から、視線を前へ戻した時、ふと見覚えのある人影が目についた。見間違いでなければあれは、私の恋人だ。
「……迅?」
「おかえり、なまえ」
「雨、読み逃したの?」
「そういう訳じゃないんだけど、まあ色々あってさ」
「色々あってって。こんな服濡れてたら雨宿りの意味ないでしょ。ほら、入って。うちすぐそこだから」
「助かるよ。じゃあお言葉に甘えるとしますか」
たまにどこで何をしているか分からない迅だけど、いつものらりくらりと上手くやってるはず。そう見えてたし、そう思ってたからこそ少し焦って冷たくなった手を引っ張った。
「ちょっと待っててね。今タオル持ってくる」
結局あの雨で相合傘じゃ荷物が濡れないくらいしか傘の意味がなかった。髪や裸足になった足を拭いても服は冷たいまま。
「取り敢えず迅シャワー浴びて。洗濯機は回し方わかる?」
「俺はあとでいいよ。なまえが先に」
「駄目。私は着替えあるけど迅はないんだから、さっさとその服なんとかしないと」
「じゃあ一緒に入ろうか?」
「っな、あ、のねぇ手を…ふざけてないで早く」
「俺はふざけてないよ」
冷たい手が頬に触れた。お、暖かいな、なんて笑う迅の声のトーンはいつものそれでないことは明らかだ。
「わ、私着替えないと」
「俺が脱がしてあげる」
「やだちょっと、さっきから何、ひっ」
脇腹をぺたりと触られてあまりの冷たさに背筋が伸びる。くつくつと笑う迅のせいでさらに恥ずかしくなった。
「今の反応可愛い」
「だって冷たかった、やだやだ、何処触って」
「何処?うーん、太ももと背中」
「そういうことじゃ。ね、迅どうしたの?いつもこんないきなりは」
「いや、部屋に上がる時点で下心はあったんだけど、濡れてるの見たらつい。やらしくて」
「〜っ」
耳の縁をゆっくり唇でなぞりながら手は確実に私の身体中から体温を奪って元の熱を取り戻していく。
「酷い男」
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