短編 | ナノ




がやがやと聞こえた声に席を立ち上がる。自分達とは別のゲームを終えて帰ってきた彼らの表情は明るい。

「なまえ」

努めていつもの声音で名前を呼ぶが、足早になってしまっているのを恐らく周囲の仲間たちは気付いているだろう。

「イライ!今日は全員で脱出できたよ」
「それは良かった。怪我はないかい?ハンターに殴られたりは」
「ううん。今日は私は解読だけだったから」


その言葉を聞いてホッと胸をなで下ろす。
そっと髪を撫でると、周りからいちゃつくなら他所でやれと野次が飛んで2人して笑ってしまった。

こうして住居区にいる時間が一番安心だ。みなで食事を取り、他愛のない話をして、恋人とともに眠りにつく。
たったそれだけの願いだ。


「明日もゲームだったな」
「うん。今日勝てたから、明日もその流れを持っていきたいな」
「ああ、そうだな」
「イライも明日あるよね。私とは別のだけど」
「ウィリアムやナワーブが一緒だ」

そういうと彼女は相棒を方を見て、そして俺を見た。

「そしたら救助より解読メインになるのかな......気を付けてね」

ちぅ、と額に落とされた口付けに心が暖かくなる。どうか心優しい愛しい人が、明日も無事に帰ってこれますように。

「そろそろ寝ようか」
「うん。おやすみなさい、イライ」
「おやすみ、なまえ」

今日は遅い時間まで動きっ放しだったからだろう、暫くすると腕の中ですぅすぅと寝息が聞こえてきた。
彼女を起こすことのない小さな相棒の鳴き声が夜に溶けていき、そして自身もまた意識がまどろんでいく。

(明日も、どうか......)


「イライ」
「ん......」
「朝だよ、起きて。イライ」

少しぼうっとする頭で彼女に口付けて体を起こす。窓からは柔らかな日差しが差し込んでいた。

「おはよう、なまえ」
「はい。おはよう、寝坊助イライさん」

寝癖ついてる、とベッドに座り込んだままの俺の髪を撫でる手に1日の始まりを感じながら、いつもと同じ質問を投げかけた。


「なまえ、今日もゲームがあったよな?」

寝癖が落ち着いたのか、手を離した彼女がきょとんと俺を見つめてから口を開く。

「うん!」
「勝てるといいな」
「昨日は負けちゃったから、取り返していくよ!」

にっと笑う彼女と差し込む日差しはとても似合っている。

「応援しているよ」
「ありがとう。イライもね」

泣きそうになりながら、祈るように己の目を覆い隠した。


(明日もどうか、彼女の記憶が巻き戻りませんように)


その願いは聞き届けられなかったというのにまた、俺は神に縋るんだ。



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