短編 | ナノ




「2B、これで終わりました」
「……」

倒していた上半身を起こし沈黙する2Bさんに続けて問う。

「接続はどうですか?」
「良好。……ありがとう」
「どういたしまして」
「2B、終わりました?」

新しく入った攻撃システムの接続調節を終わらせると、静かに自身の与えられたスペースに座っていた9Sが2Bに声をかけた。

「あの、よかったら9Sも」
「僕はいいです。今ので間に合ってますし、自分で済ませますから」
「そう、ですか」
「それじゃあ僕達は別件があるので失礼します」

行きましょう、と声をかけられた2Bさんが私の予定を聞いてくる。
今日は今お世話になっているのとは別のキャンプでの頼まれごとを済ませる予定のため、2人とは別行動だ。まあ予定がなくとも9Sの計らいでいつも別行動になるのだけれど。
扉の閉じる音は、静かな外からのささやかな雑音をシャットアウトすることなど容易く、静寂に包み込まれた。


あれは、いつからだろう。
支援型戦闘モデルの私が2人と共に行動するよう指示を受けた時、既に9Sは不服に感じていたのかもしれない。けれど最初は行動を共にすることがほとんどで、こんなにもきっぱりと話を切り上げられることも無かった筈なのに。

彼は2Bを慕っている。それは誰にでも親しげな9S独特の性質をもってして考えても、明らかな事実だ。
その2Bとの空間に割り込んだ異物である私。しかも支援型故にスキャナーモデルの彼と重複した能力があり、適性確認も兼ねて彼と2Bの時間や、9Sが請け負っていた仕事も結果奪うことになってしまった。
重ねて支援型戦闘モデルでありながら9Sと大きな差のない戦闘能力。もちろん支援型であるからして9Sよりも優れていると自負している能力はあるが、今ここに必要かは考えあぐねている。

以上をもってして考えれば私が厭われているのは至極真っ当であるのだ。で、あるのだけれど。まるで重要なOSが欠けているような、性能を疑われているような、この状態をどう表したらよいのだろう。


請けた予定が手早く終了し、ついでにと依頼された届け物を手にパスカルの村へと足を動かす。せめてあの穏やかな村で、私の心理状態も回復すれば。そう、考えながら梯子を登りきった先にいたのは、9Sだった。
梯子を登る音に私を2Bと勘違いしたのだろうか、笑顔で振り返った彼が瞬間口元を引き締める。ああ、彼が本当の笑みというものを浮かべるとあんな表情になるのか。
自分に向けられないのは理解しているが、それでも気にしてしまう。だがそんな態度を見せては余計9Sの心理状態に悪いだろう。会釈して目的のパスカルの元へ少し、ほんの少しだけ駆け足で向かった。



「……」
「9S」
「……」
「9S」
「っ2B!すみません、少しぼうっとしてたみたいで」
「そう」
「確か例のあの姉妹に会ってきたんですよね。用は済みましたか?」
「まだ」

彼女の手には自分と別れる前には無かった何かの入った箱を手にしている。今度はそれを届けでもするのだろうか、と首をかしげる9Sに2Bがそれを差し出した。

「贈り物用に選んだ。9Sから渡して」
「……えっ、僕宛じゃないんですか?」
「9S、いつまで彼女を避けるつもり」

淡々と核心に触れてくる2Bに9Sが口を紡ぐ。

「新型の彼女との連携情報は多くあるべきだし、何より支援型をあえて単独にする必要性はない。むしろ戦闘時の危険性が高くなる」
「それは……理解して、いるんです」
「なら何故避けるの」
「何故ってそれは、今まで僕と2Bで十分上手くやってきたのに。支援型だなんて、能力を見てもスキャナーモデルと大差ありません」
「私と9Sには同一能力と製造型別の能力どちらもある。9Sと彼女も同じ」
「それは……危険性が高くなるのは、ええ、2Bの言う通りです。さっきここで見かけましたからこの後は一緒に行動しましょう」

そう言うとどこか満足そうな緩みを見せた2Bにけれど、と続ける。

「贈り物を渡すのは、第一僕が選んだ物でもなければ贈る意思もありません」
「ここの機械生命体達に聞いた。文献によると人間は、祝い事や別れの時、それから仲違いをした人物と関係修復をする際に贈り物をするとか」
「それ、本当なんですか?」
「さぁ。でもいい機会。髪飾りが入ってる。私は不要だから9Sに渡す。もう9Sのものだから贈り物にしても不自然ではない」
「…………考えておきます」

箱の蓋をあけると確かに、贈り物に良さそうな装飾のついた髪飾りが入っている。僕はただ、必要性が無いに等しいにも関わらずここへやって来て、まるで九号S型と交代するためかのように働く彼女がどうにも解せないのだ。だが自身のせいで2Bに気を遣わせてしまった以上、これを渡して形だけでも関係修復を試みるのもいいかもしれない。

「パスカル」
「ああ、2Bさんに9Sさん。お二人は彼女とご一緒に行かれないんですか?」
「行くってどこに?」
「なんでも砂漠地帯に危険な機械生命体が現れるらしく、これからそちらに向かわれるそうです」
「2B……」
「パスカル、座標は分かる?」
「すみません、てっきり皆さんご一緒かと思って場所までは……」
「そう。POD、彼女の位置を調べて」






「起動」

ふわりと視覚、聴覚情報が音が徐々にますように持ち上がる。今聞こえた声は9Sだ。ああ、やはり、横たわる私のそばに立っている。2Bがその後ろからやって来て私に声をかけた。

「問題はありません。私達は一定のダメージで自動バックアップが更新され、直前までの記録が残りますので。お二人が駆けつけて下さったんですね!申し訳ありません」
「無事だったならいい。でも次は声をかけて」
「はい。あの、あの場にいた機械生命体は……」
「すべて倒した。他の細かい調整は自分でできる?」
「はい。9S、あなたにもご迷惑おかけして申し訳ありません」
「…………」
「あの……それでは私はこれで」

返事はなく、気まずさから逃げるように寝台から立ち上がる。元々自分が横になっているのも9Sのスペース。2人用に用意された部屋に無理矢理私のための空間を用意するのもはばかられて、自身の居住スペースは遠慮している。休息などとこでも、いざとなればバンカーで取ればいいし。

「報告、誰にしにいくんですか?」
「、えっと……私に聞いてる、んですよね。パスカルの村に」
「一緒に行きます」

唐突な提案。けれどさっき私が引き起こした事がことだけに遠慮するわけにもいかず頷いた。

「私は引き続き依頼に当たる」
「分かりました。僕の分もよろしくお願いします」
「えっ……と、はい。分かりました」

まさかの9Sと2人での行動。しかも彼は村まで徒歩の移動をするつもりらしく、部屋を出るとさっさとキャンプ外へ足を進めていく。

「あの、9S。徒歩で向かうんですか?」
「そうですよ。各ポイントごとの移動が可能になったとはいえ、慣れてもらわないと」
「分かりました」

すれ違う機械生命体はほとんど無視して、たまに避けきれないものもあっという間に9Sが倒して、思っていたよりも割とすぐに村に近付いたと感じる。
不思議と各エリアの境は一層静かに感じて、前にいる9Sの背中をひたすら見つめる。

「村の機械生命体が」
「えっ」
「村の機械生命体が砂漠まで出ることはそうは無いですけど、どんな依頼を請たんですか?」
「砂漠まで取りに行きたい物があるから、と頼まれました」
「ならあなたに取ってきてもらえば早かったんじゃないですか?」
「私もそういったんですけど、自分で、自分で取ってきて、自分の手で渡したいと」

そう、私が倒したところで普段から辺りをうろついている機械生命体もいる。せめて、取りに行く時も護衛をと提案したのに、1人で行くと断られてしまった。

「贈り物を」
「っ、」
「9Sに聞いてもいいですか?」
「内容にもよるけど……」
「あの機械生命体は、贈り物をしたいそうです。だから私が取りに行くのも、護衛も断られました。贈り物を1人で取りに行くことで価値が変わるのでしょうか」
「……」

質問の内容が悪かっただろうか。歩く速度を少し落とした9Sは黙り込んでしまった。

「すみません、やっぱり」
「試してみますか」
「え?」

唐突に振り返った彼は無骨な箱を私に差し出した。反射的にそれを受け取る。

「これは2Bが僕からあなたに渡すようにと用意したものです」

促されるような視線にその箱を開ける。きらきらとしたそれは、髪飾りだった。いつだったか、オペレーターさんに聞いた事がある。綺麗な装飾品。

「どうですか。これを僕が1人で用意して渡したとしたら、これと何か変わりそうですか?」
「……」

9Sが1人で。もしそうだとしたら、ああ、希望的観測を抱くだろう。もしかしたら私はここに居ていいと認められたのかもしれない、と。
けれど違う。2Bは不仲な私達を気遣ってこれを用意してくれた。2Bから渡すように言われた以上9Sも断るわけにはいかない。

ああ、これは。まるで誰からも必要とされない髪飾りは。本当に、私みたいだ。


「…………」
「、どうしたんですか?」
「すみません、私には……私には理解できないみたいです」
「……そう」





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