短編 | ナノ



「ここ!」

彼女が指差したのは大きな木造の、クラスメイトの家だった。


「奴良君!このとーり!!」
「えっいや……待って、金髪いけ、え?」
「だから!奴良君のお家の金髪イケメンの人!いるよね!」
「う、うーん……心当たりはなくはない、けど」
「10分!!いや、5分でいいの!!その人に会わせてください!!」
「どうかな……帰って聞いてみないと」
「じゃあ今から行こう!?今日放課後何にもないよね!」
「今から!!?」

人が良いことで知られる奴良君とは言えども急すぎる用件に少し困った表情を見せる。けれどもここで引く訳にはいかないのだ。
そうして押すに押して承諾をもぎ取った私は今、奴良君と共に学校を後にした。

「確認のために聞くけど、その金髪イケメンさんって和服?というか和装?だったりする?」
「う、うん。そうだね」
「よかった!」
「あのさ、みょうじさんって一体どんな要件で……」
「それは乙女の秘密!」
「えっ」

ちらちらと私の方をみていると思ったらそんな声をあげて顔を少し青くした奴良君が少し歩く速度を落とす。

「みょうじさんが……首無を……」
「首がなに?」
「あっ、いや!何でもないよ!」

慌てる彼に首を傾げていると例の彼の家に到着した。

「それじゃあよかったら中に……」
「あー、できればここで待ってたいんだけどいいかな?」
「ここで?構わないけど……」
「今更だけど急にごめんね。どうしても早く会いたくて」
「はっ早く……会いたくて……うん。そっか、そっかぁ……」
「?」
「あ、じゃあ聞いてくるね」

すっかり肩を落とした様子の奴良君と打って変わってご機嫌な私。
どうか居ますように、と念じながら待っていると足音と人の気配が戻ってくる。

「あ、奴良く、ん……じゃない金髪イケメンさん!」
「えっと、僕に何か用かな?」
「あの、その前に奴良君そこに居ますか?」
「いや、居ないよ」
「良かった……あ、私奴良君のクラスメイトのみょうじなまえと申します。今日は急にすみません」
「あ、いえいえ、お気になさらず」
「先にお願いしたいんですけど、後ほど奴良君には今日挨拶せずこのまま帰ってしまうことの謝罪と、お礼を後日するとだけお伝え頂けますか?」
「ええ、構いません。それで用件というのは?」

のっけからこれでもかと色々喋る私に対して物腰柔らかに返してくれる彼に安心して、ちょっと待っていて下さいと後ろを向いた。
すぐそばの角を曲がったところ、そこに隠れるようにしゃがみ込んで未だもじもじする妹。

「あのお兄さんでしょ?ほら、大丈夫だから」
「で、でも」
「じゃあお姉ちゃんここで見ててあげる。そしたら安心でしょ?」
「……うん」

頷いたのを確認した私は今度は角から顔を出して不思議そうにしている彼に会釈をすると、妹の背を押した。
とてとて…と歩いていったのに途中で不安そうに振り返るものだから可愛いその姿に頑張れとエールを送る。
やっと吹っ切れたのだろう。頑張る!とこれでもかと大きな声を出したその子は金髪の彼の元へついに辿り着いたのだった。

「あの、お兄ちゃん!」
「はい、何でしょう」

すぐさま視線を合わせてしゃがんでくれた彼に感動しながら大事な妹の勇姿をじっと見守る。

「このまえ、ハンカチひろったの、ありがとうございます!あのね、えっと、あ、あのね」
「僕は逃げないからゆっくりで大丈夫だよ」

優しい手つきで彼が妹の頭を撫でる。私はただその様子を携帯で動画に収め続ける。

(いけ!頑張れ!)
「お、お兄ちゃん王子さまみたいだったの!これあげる!」
「これを?」
「うん。あのね、お姉ちゃんがね、かっこいいお兄ちゃんなのってゆったららぶれたーあげたら?って」
(言えたああああああ!!!)

ごにょごにょと小さな声だけれど、彼はしっかり聞き取って笑顔でそれを受け取った。

「ありがとう。じゃあこれは誰もいないところで大切に読むね」
「うん!!!じゃあね!!!」
「気をつけて帰るんだよ」
「はーい!!お姉ちゃーん!!」
「わああああ頑張ったねええ!!偉いぞ〜!!!」

抑えきれずに私も駆け寄って抱き上げるときゃあきゃあと笑い出す。天使か。私の妹天使か。

「がんばったから今日は焼肉!!」
「や、焼肉か〜!いいよいいよ〜!いっぱい食べようねぇ〜」
「うん!お兄ちゃんまたねー!」

腕の中であがった声にハッとして彼の方を振り返る。そりゃあもうすっかり忘れていたのだが、案の定くすくすと整った顔で笑っていた彼がまたねと手を振り返してくれたからつい私も手を振ってしまう。
妹を抱えたまま礼をすると私は家への道を歩き始めた。後日奴良君にちゃんとお礼をしようと思いながら。

「……もう行きましたよ、若」
「う、うん」

2人の姿が見えなくなって手を下ろした頃、影からリクオが顔を出す。

「仲の良い姉妹でしたね」
「そうだね」
「あの方が若の想い人だったとは」
「っだ、誰にも言わないでよ!!」
「はい」
「それにしても妹さんだったのか……」
「後日お礼を、と仰っていたのでデートに誘ってみては?」
「なっなななでっデート!?」

翌日、見知った仲間の目の前でお礼にお菓子を手渡されたリクオは見事、デートのデの字すら言えずに終えたのである。



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