短編 | ナノ


〜5年後〜

というのは嘘でーーーす!!
ちょっと鉄板のえっ、まさか、5、年、後......だぁーーー!!!という感じでのあれを言ってみたかっただけである。本当は3日しか経っていませんよ!!
ここ3日の私はとても控えめに頑張っています。お風呂の使い方分からなかったから(いやこれはマジで)千寿郎くんにいれてもらったけどね(下心は認める)、背中も流してもらったけどね、夜も一緒に寝てもらったけどね!!!!!

ねぇ、知ってる?千寿郎くんの胸板は痩せ型傾向がある現代日本で生きてきた私にとってひと舐めいきたくなる素晴らしさがあったよ。発展途上ながら確かに鍛えられたそれと、細身なシルエットなのに不意に成長を感じさせるような......げふん、いかん、私いま幼女や。
あいや、しかしあの声で囁くように私を寝かしつける彼の腕を私は今も鮮明に覚えております......。

「なまえ!」
「なに、せんじゅろ!」
「これを混ぜてもらえますか!」
「いいよぉ」

正直水回りは現代と比べると便利さのかけらもないが、逆に興味深くてうろちょろしているうちに簡単な手伝いならさせてくれるようになった。何だろうこれ、主夫行をこなす理想的な夫と家事があまり得意ではない不器用な妻(わ・た・し)とで日々の生活を共にしているようでございます。

「ふへ、」

瞬間にたりと笑った顔を引き締めて、手元にあるものをかき混ぜる。今は体が小さいこともあり、ものを切ることも洗うことも手伝えないけれど、こうしてお情けのように和え物のような体験クエストしかこなしてないけれど、けれど私にゃあ夢がある!!それは煉獄家全員とのお風呂をコンプリートする事である。私にゃあ夢がある!!それは煉獄家全員の腕に抱かれて眠り、胸元はだけた艶やかな彼らを見る事である。
今日も1日、がんばるジョイ!!!

「なまえ、拳を突き上げてどうしたのですか?」
「なまえ、きょうもがんばるぞー!ってしてたの!」
「そうですか。とっても頼もしいです」
「でしょー」

さて、未だ最推し帰らぬ我が家なれど。いや我が家じゃねぇけど力づくで我が家にする予定だから我が家な。
槇寿郎さんとは一緒にご飯を食べている。まあ確かに今があると余計に自分の部屋でご飯食べるって感覚しないよね。
食事中の会話はほとんどない。いただきますもご馳走様も言わないし。けれどそこに居るならやりようはある。そう思った私は2人の間に座ることにした。んー煉獄さんの膝の上であーんしてもらえるのいつかなぁ〜。

「せんじゅろ、なまえがつくったやつおいしいねぇ」
「ふふ、はい。そうですね」

え?お前は混ぜただけだし千寿郎くんのご飯のがうまいって?はぁあああ???知ってますけど!!今食べてますけど!!幼女は自信過剰な方がかわいいんだよ!!
と言い切ったところでやはり幼女100%スマイルなのである。

「せんじゅろのつくったのもきょうもおいしいよ!」
「本当ですか?」
「うん!なまえがいちばんだけどね〜、せんじゅろはなまえよりもっといちばん!」
「!」
「これはせんじゅろだけだからね。きょうじゅろと、しんじゅろにはひみつね」


ここまで素面であるがしぃーと人差し指を立てれば、頬を紅潮させて嬉しそうな顔をした彼が嬉しそうに微笑んだ。
さては槇寿郎さんに丸聞こえなのにひみつのつもりで居るところとか、自信やや過剰な子供に特別と言ってもらえたところが可愛かったんだな。自分の才能が怖いぜ......。

さて、今日の突撃槇寿郎は、甘やかしてもらう、もしくは褒めてもらう、を目指そうと思います。まずは彼と2人きりにならねば。
からん、とお箸を手から落とす。私はこれでもご飯は綺麗に食べるし、お箸もちゃんと持てるわけだが、いかんせん私の手よりも大きいサイズなので仕方がない。

「あっ、ごめんなさい」
「いいんですよ。少し大きいですから、それなのに綺麗に食べれてえらいです」


洗ってくるので待っていて下さいね、と千寿郎くんが部屋を後にし、部屋には槇寿郎さんのご飯を食べる音だけが響く。
その姿勢はぴんと背筋の伸びた千寿郎くんと違い崩れているが、一家の大黒柱らしい貫禄がある。そしてぱくぱく食べる。そんでもってこんな美幼女を見もしない!

「ねえねえ、しんじゅろ」
「......」

箸を止めてちらりとこちらを見た槇寿郎さんは一瞬の思案の後に無視をした。先の流し目も相まって大変なご褒美です。

「しんじゅろ、これもたべる?」
「いらん」
「でもなすたべてほしいの。たべないとおおきくならないよ?」
「大きくなるのはお前だろう。好き嫌いするな。我慢すると言っただろう」

あっ!煉獄家の教育の片鱗が見えた気がするー!!テンションあがるぅ!!!

「じゃああーんして」
「自分で食え」
「おねがい、しんじゅろ」

小さく切られたなすの入った器を持って彼の元へとすり寄った。

「あー」
「やらん」

無視をする彼をさらに無視をして口を開ける。ゆらゆらと体を揺らしてみたりしたがこいつ、まじでやってくれないな!もうちょっとだけ甘やかしてよパパ.......。

「なまえのおくち、いたくなっちゃうよ」
「千寿郎に頼め」
「しんじゅろじゃないとだめなの」
「.....ちっ」
「んぐ」

(粘り勝ちだな)

いい加減相手をするより口に放り込んだ方が早いと気付いたのだろう。乱暴に、そしてかなりめんどくさそうに口に入れられたそれを咀嚼する。安心してほしい、元々本当に嫌いなので表情はばっちりだ。
しばらくしてごくりと飲み込んだ私は、もう終わったとばかりの顔でいる彼にまだ終わりじゃねえぞとにっこり笑いかけた。

「たべた!」
「そうだな」
「なまえ、えらい?」
「普通だ」
「むぅ、えらいよ。ほめて?」
「......」
「しんじゅろ、」
「......」

遂に何も返さなくなった槇寿郎さん。甘いですね、幼女にとって罪悪感という罪悪感を擽るなぞ朝飯前!簡単に逃げられると思うなよ。てかこの間ぎゅってしてくれたのはなんなんだよ!寝てたからか?半分寝てたからか?

「しんじゅろ、なまえのことやなの?」
「......」
「やだよう。しんじゅろ、」
「......」
「やだから、なまえのこえ、きこえなくなっちゃったの?」

ちいちゃなおててで摘んで泣きつけば、彼の雰囲気が揺らいだのがわかった。いける。いけるぞ。

「......」

俯いて、黙り込んだままきゅうと手を握りしめた。あとはどちらが先に折れるかなのだが。

「はぁ」

ぽん、と頭に手が乗った。
勝った!!!!!
が、そのままふわりと体を持ち上げられ席に戻された。

「次はないからな」
「しんじゅろ、あのね」

そのまま大して離れていないようで距離のある彼の席へ戻ってしまう前に声をかけた。引っ込みかけた手の、指の何本かだけを握って。

「いいこいいこは、しんじゅろがいちばんすきなの(だったいい男だもん)」
「!っ、黙って食え」
「はぁい」

またやってもらうつもりだけどね。
槇寿郎さんが2人を褒めたりしないのはきっと、2人の頑張っていることに納得ができてないから。自分が誰かを褒めるような立場の人間だと思っていないから。だと思う。
ならば誰かを褒めることをなんてことないものとするだけだ。

「なまえ、お待たせしました」
「あ!ありがと、せんじゅろ」
「どういたしまして」

いいタイミングだ。しかし結構時間をかけてしまった割には中々戻ってこなかったけれど。空気読んでた?いや、でも近くにいたなら千寿郎くんより先に槇寿郎さんが気付いただろう。
すると千寿郎くんは私にお箸を渡すとそのまま槇寿郎さんの元へと歩いていってしまった。まるで何も気にしていない風を装いながら親子向かい合う様子をおかずに米をかきこむ。こりゃうめぇ。

「父上、先程なまえのことでこの手紙が」

そう言って懐から出てきたのは手紙だった。懐から。そう、懐から。懐......いいなあ。
流石に私のこととなれば邪険にもできないのだろう。頬を書きながら文を広げるその姿、まさに美の化身。ああ、お母様を愛するそのお姿も目に焼き付けたかった。くやしい、くやしいなぁ。
仏壇に手を合わせた時に少し話を聞かせてもらった。顔は漫画でちらりと見たものを思い出すほかないけれども、ああ、きっとそれは幸せをいっぱい詰め込んだ素敵な光景だったに違いない。私も2人の息子と一緒に並んでさつまいも食べたかった。槇寿郎さんと結婚する、と言ったらあらあらと笑うのだろうか?渡さないと言われるだろうか?お母さんを貰うと言ったら絶対槇寿郎さんはやらん!っていうだろうなあ。
あ、安心してください。私はいつまでも杏寿郎さんと結婚したい。あっ杏寿郎さんって呼んじゃった。最推しだから煉獄さんって呼ばないと恥ずかしいんだよなぁ。大丈夫かな、煉獄さん。怪我してないといいな。




---



手紙には、隠の調査の結果彼女の両親が亡くなっているという予想通りの結果が書かれていた。子供の服がある家に男女2人の死体が見つかったため、おそらくそこの子供だろうと。
育手に紹介したところであの様子では大した腕にはならんだろう。なに、育手は暇ではない。となると寺か。鬱陶しいほどに懐こい子供だ。上手くやっていけるだろう。

「あ、あの、父上」
「なんだ」
「兄上は、その、うちで預かってもかまわないと」
「ならん」

絆されているのがよく分かる。
だが、どこの馬の骨とも知れぬ手がかかるばかりの子供をこれ以上置いておくような義理はない。先のしつこさと言ったら。
自分の名と共に文を出されたのだ、聡い子なら気付いただろうにのうのうと飯を食っていた子供にちらりと目をやった。


(!、聞いていたのか)


意外にもその子供は、文を開いたほんのわずか前まで米をかき込んでいた手を止め、ぼうっと表情を無くしたままこちらを見つめていた。(幼女、ふところいいなぁのくだりを思い浮かべたところである)
そのままえも言えぬ表情で(お母様もさぞ美人だったろう。会いたかったなぁと)手元に目を落とした彼女は、先程千寿郎が洗ってやった箸を見て(息子さんとさつまいも食いてぇわぁ......と)小さく微笑んでいた。
よもや今何を話しているのか、自分の行く末を理解しているのだろうか。そうとしか思えぬ様子で微笑む様は、必死に千寿郎の優しさを焼き付けようとしているようにも見える。(煉獄杏寿郎と結婚したいと考えている顔である)

先までは何度も何度も俺や千寿郎に目をやっていたというのに、こちらが視線を向けている今それに気づく様子はない。


ーしんじゅろ、なまえのことやなの?ー


その声はいつか、1人にしないでと泣いた声音に似ていてどきりとした。そして今あの幼い顔が浮かべる(推しを心配して)悲しげな表情は、......ああ嫌になる。なんで俺がこんな餓鬼を。

「俺の知ったことが。知らん。好きにしろ」

逃げるように部屋を後にすれば嬉しそうな千寿郎の声がした。ああ嫌になる。


(本日の勝者、幼女ーーー!)



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