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私はちょっと頭がおかしい。キチガイとかそういうわけでもないし常識だってある。ただ、ある日気がついたら私は、24年ちょっと生きた記憶を持つ6歳児だったのだ。6歳の私は記憶にある6歳だった私とは別人物で、今の体で過ごした6年間の記憶はなかったから、この女の子に乗り移っちゃったのかなとか、前世の記憶でもあるのかなとか、とまどったのを覚えている。しかしどちらにせよ元に戻ることはない。24年と少し。長いような短いような記憶は、しがない交通事故で終わっているのだから。このままこの体で成長していくか、私という人格が消えてしまうかのどちらかだろう。
しかし、やり直しとも言えるこの人生は周回プレイ特典がちょいちょいあった。どうしても苦手で諦めていた英語を小さいうちから習ってみたり、ちゃんと毎日日焼け止めを塗ってみたり、平泳ぎが苦手だったから水泳教室に行ってみたり。そういうちょっとした特典。
分かりきった内容の勉強は年齢が上がるにつれそんなこと言えなくなってきた。人間忘れていく生き物だから仕方ないけれど、すっかりおさらばしていた理系科目とまた向き合うのは嬉しくない。それから同い年の子たちといまいち趣味が合わないのも難点だった。けれどよくよく考えるとそれも小学生の時に比べたら微々たるもので。

「いらっしゃいませ!」

高校生になって嬉しかったのはバイトを始められるようになったことだと思う。色々なバイトを転々としていた私が当時やっていたのはレストランのホール。仕事さえ覚えれば楽なもので、営業スマイルと共に店先を見て目を丸くした。いや、だって事もあろうにクラスメイトが来るなんて。

「みょうじ?」
「こんばんは、黒尾君。1人、じゃないよね」
「ああ、家族が先に」
「あー、はいはい。こっちだよ」

気持ち程度の仕切りで見渡し辛い席を抜けて、あとから1人来るといっていたテーブルへ案内する。

「あの席であってる?」
「おう、サンキューな」

家族との出掛け先で知り合いと会うと気まずそうにするものだろうに気さくにバイト頑張れと言って黒尾君は席についた。

(いい子だなぁ……)

「お姉さーん、このお皿下げてくれる?」
「はい!あ、お飲み物のおかわりはよろしいですか?」
「あー、じゃあこれと同じの」
「かしこまりました」



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