適切かつ妥当 | ナノ




「おおー。合宿かぁ」
「リアクション薄いな」
「いやぁ、なんかしみじみ?しちゃって」
「何でだよ。あとこれ、合同合宿だから他校も一緒だ」
「え、合同!?」
「そ、合同。梟谷学園グループっつってよく練習試合とかするグループ。練習試合した生川とか森然覚えてるか?」
「うん、まぁなんとなく……」
「あとそこに梟谷ってとこが入る」
「梟谷?」
「なにせ特に引っ張りだこなんで練習試合はお前が入ってからしてねーけど」
「強いんだ」
「おう。あそこのスパイカーは全国五本指に入る」
「え!かっこよ!!」
「それ本人に言ったら喜ぶぞー」

数日間続く長期休みの話題がちらほらあがり始めた頃、私はすっかり……と言うにはまだ少しぎこちなさが残るもののバレー部に馴染んだ。多分その理由には誘ってくれた黒尾君が気が効く人だってこととバレー部の人が気さくだというのが挙げられると思う。
今ではすっかりバレーに脳内を占領されつつある私に、母はいい男いたらゲットしちゃいなさいよなんて冗談を言うぐらいには応援してくれているし、帰りが遅くなるといい顔をしていなかった父も試合がテレビ中継される度に解説が入ってる癖にわざわざ質問してきたりするのだから可愛いものだ。

「でもそんなに学校多いとなると……顔写真とフルネームついた名簿ほしいなぁ」
「まぁ合宿も今回だけじゃねえし嫌でも覚えるだろ」
「そっか」
「あとおやつは300円までな」
「小学生か」

手にしていたノートで軽く叩くとハッと思い出したように黒尾君がこちらを向き直した。

「あと宿題持ってこないと痛い目見るぞ」
「あ……まぁ出るよね、課題」
「出ねぇ方がおかしいな」
「……まぁ分からなくても聞ける人いっぱいいるし」
「お前頭悪いの?」
「なんかその聞き方むかつく!ちょっと苦手科目があるだけですー」
「そうむくれんなって。頭良さそうに見えたからさ」

その後のくだらない会話は割愛しよう。まぁ、そんなこんなで課題は出た。それも中々どぎつい量。大学受験を考えれば妥当ではあるが、果たして合宿の中片付けられるかは不明だ。教えてもらう、の意味でも写させてもらう、の意味でも頭を下げる覚悟で荷物を詰めていざ、合宿に出発した。

「あれだよ」

今回の合宿先を指差して呟くように言った孤爪君にへぇー、と呟き返す。私が指差す先を見て視線を彼の方へやった時にはもうその顔は下に落ちていた。一見ぶっきらぼうにも感じるが、彼の性格を知った今では特に気にならないし、無理に会話を続けるよりだいぶ楽ではある。これから数日間共にする他校の人も気が合うといいのだけれど。

「黒尾ー!!」

敷地に入って暫くするとでかい声が聞こえた。孤爪君と一緒になってビクついて視線をやると髪の毛を逆立てた子がこちらにダッシュしてくる所だった。

「初っ端からテンションたけーな」

先頭を歩く黒尾君の声が聞こえた頃にはもう彼は音駒勢の真ん前までやって来ていて、黒尾君の二の腕の辺りをばしばしと叩いていた。

「ついにマネージャー取ったんだって?誰々?」
「そこ」

視線をこっちに向けて顎をしゃくる黒尾君。その横にいた彼と目がばっちり合った。

「へー。バレー経験者?」
「未経験だよ。あとどちら様でしょう」
「俺は梟谷の主将、木兎光太郎だ!」
「3年のみょうじなまえです。よろしくね」
「おう、よろしくな!」

肩に置かれた左手でぽんぽん、いや、ばしばしと叩かれる。払いのけるほどの痛さではないが正直こう、衝撃が凄い。

「ほら、さっさと歩けー」

彼の登場ですっかり足を止めていた私達が黒尾君の声でまた目的地へ向かう。

「ちなみにこいつがこないだ話した五本指な」
「え!木兎君、君がそうだったのか」
「?そうだったのだよ!!なんだなまえ、知らなかったのか!」
「最近までバレーと無縁だったし。うわー、凄いねー。でも確かにスパイク凄そう!こう、ずばぁんって!」
「おう、ずばぁんってすげーぞ!今日の試合で見とけ!」

今度は背中に衝撃。そんなにヤワなつもりはなかったのだけれど、大きな掌が背中にぶつかった勢いでよたよたと前へよろける。けれども特に嫌悪感とかイラつきはなく、なんとなく笑みが零れた。こんな純朴な感じの子は今時珍しいだろう。いや、純朴と言えばうちの山本君もそうなんだけど、彼は初心って言う方が合っている気がする。

「俺らも急いで支度すんぞ」

大まかな仕事は変わらないとは言え、メンバーも場所も変わるとなると色々違うこともあるわけで。仕事の詳細を聞く他校のマネージャーはどんな子なのだろうと、私も早足で準備にかかるのだった。



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