夢見 | ナノ



不思議と落ち着いていた。夢から覚めるまで廊下に座り込んでいたせいで最初に目に入った壁から離れ、傍にいる研磨君を見る。

「取り合えず安全そうな場所に行かないと。あの子が来るかも」
「分かった。じゃあ校長室に行こう」

それがここから近い施錠できる部屋なのだろう。頷くと、目の前に研磨君の手が差し出された。

「あの?」
「手。繋げばはぐれないでしょ」
「そっか……えと、ありがとう」

顔色ひとつ変えることなく私の手を握りしめたままずんずん進んでいく研磨君。なんだかんだで私よりも背の高い彼の手は勿論、私より大きいし少しかたい。ボールに毎日触ってるからなのだろうか。

「わたしと入れ替わってる間のあの子って、どんな感じだった?」
「なまえみたいだった。普通に学校行ってたし」
「よく、気付いたね」
「別に……癖とか、なんか違ったし」
「私あんまり癖ないと思ってたんだけど……そっか」
「……」
「……」
「……言いたいこととか、返答がうまくまとめられない時」
「え?」
「そうやって最後にそっか、って言う」
「……」

言われてみればそんな気も、しなくはないけれど。

「け、研磨君もよく、別にって言うよね」
「……そんなに言ってない」
「そう?お礼言った時とかいつも別にって言われる気が」
「言ってない」
「ふふ」
「なんで笑うの」
「んーん、何でもない。研磨君に助けてもらえてよかったなぁって」
「違うでしょ」
「違くないよ。これはほんと。ありがとうね」
「べ……どういたし、まして」

少し空気が和らいだ感覚に陥った。すぐに校長室について、ふかふかのソファーに座って今までの話を聞く。研磨君は私のことに気付くまでの間にだいぶ探索を進めたみたいで、けれどなんの収穫もなかったと言っていた。こっちも同じ。閉じ込められていただけ。

「体が、欲しかったのかな……」
「え」
「あの子。呪い殺されるよりもタチ悪いかも」
「……」
「でも収穫が無かったってなるとどうしたらいいか」
「まだいいんじゃない?」

膝を抱えてまるまった研磨君がぽつりとつぶやいた声に少し驚いて彼を見た。取り敢えず動いて何かを捜すって方針だったのに。

「俺、入れ替わってる間にノート受け取ったんだけど、そっちにメモ写しといたから」
「暫くはここに篭って調べ物するってこと?」
「その方が安全だし」
「……うん」

私が今回のことで臆病になっているとか、まだ体調が良くなりきってないのも考えての結果だろう。申し訳なさと嬉しさを感じながらソファの隅に座る彼の方へ顔を向けた。

「研磨君」

じろ、と出会った当初であればたじろいでしまっただろう猫目がこっちを向く。

「ここにいるから大丈夫だけど、もし何かあったら教えてね」


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