夢見 | ナノ



最近は寝る時間も起きる時間も規則的になってきて、なんとなくなら目が覚めるタイミングが掴めたような気がする。けれどはっきり今何時かなんて分かりはしないからせめて時計とかストップウォッチでもあれば、

「どうしたの?」
「へっ?」
「挙動不審」
「え、そうかなぁ。そんなつもりなかったんだけど」

ソファーに座ったまま研磨君の声にぴくりと肩を揺らした。顔を見てみれば警戒心剥き出しの猫みたいに遠慮がちな表情で、そう、そもそもこの微妙な関係性のせいでどうも踏み出しづらいんだ。

”久しぶり、元気してるか?”

そう、黒尾君から久々にそうきたものだから今日は練習調子良かったのかなと思いながら返信を返すとこんな一文が送られてきたのだ。

”そーいや明日、研磨の誕生日”

え、そうなの!?おめでとう!いやいや俺に言うのはおかしいだろ、なんて冗談めいたやり取りをしていればあっという間に時刻はいつも寝る時間に差し迫っていて、研磨君にお祝いのメールでも送ろうかなと考えたところでそういえば自分達はいつも一緒に日付跨いでるんだよなと気付いき、なんだ直接言えばいいじゃん

(とは思ったものの)

女子によくある日付変わってすぐ誕生日のお祝いメールを送るとか、そういう感覚でいたのだけれど、実際の私と研磨君の仲ってそんなにいいかっていうとそうでもないんだよね。朝のおはようメールは安否確認の一環。よくやり取りするのは情報交換のため。必要以上の会話はない。名前呼びも彼が年功序列とかそういうのが苦手なだけ。
おめでとうって言おう!なんていつもの友達相手と同じ気分で少しテンションを上げて眠っただけに、切り出しづらい。そもそも黒尾君は研磨君は人見知りというか、目立ちたくない、放ってほしいタイプだって言っていた。余計なお世話だと思われるのもなんかやだし。
たった一言、毎日会う人に言うだけなのになんでこんなにうじうじしているんだろう。迷惑をかけてるから?役に立ってないから?忙しい研磨君に負担を与えてるから?

「何かあったの」
「う、え?何かって」
「眉間に皺寄ってる」
「うそ」
「何かあったなら言ってくれないと困る。対処、できないし」
「ご、ごめん。でもこの夢とは関係ないといいますか、その、個人的なあれなので、大丈夫です」
「ならいいけど」
「う、うん。なんか紛らわしくてごめんね。今度は何かあったらちゃんと言うから」

そうだよな、困るよなぁ。なんかもうほんと申し訳ない。膝を抱えて顔を埋めた。

「……ごめん」
「?」
「なまえが閉じ込められた時。別々でも楽だし……その、見つけるの遅くなってごめん」
「研磨、君」
「言い方きつかった……?」

パッと研磨君の方を向いたものの驚きで文字通り言葉が出なかった。中々何を考えているかわからなかった研磨君がこうやって、そのことが嬉しいやら驚いたやらで何から言ったらいいのか。当の本人は抱えた膝に顔を半分埋めていて表情が読み取れない。

「私、凄く感謝してる。助けてくれて本当に嬉しかった。さっきのはその、お、お恥ずかしながら……あの、私、研磨君と、と、友達ーみたいなその、仲良くなれないかなぁって。ですね」
「え……」

絶対引かれた。友達になりたいですとか今時小学生も言わないって普通。分かってる。でもせっかく研磨君がいつもより話してくれたから私も思っていることを素直に言ってみてもいいかなと調子に乗っちゃって。さっきの彼みたいに顔を隠す。というか覆って暫く耳だけで様子を伺った。なんだこれ、友達作れない幼稚園生か。

「よ、よろしく」
「……ほんとに?」
「えっ、う、うん」
「ありがと……」

ちらりと顔をそっちへ向けると視線が合ったけれど、今度は逸らされることはなかった。私がびくびくしすぎてたのだろうか、けれど良かった。ちょっと気分も元に戻って、今ならおめでとうをしっかり言える気がする。

「研磨君、あのね」

何?不思議そうな顔を最後に視界が天井で埋まる。あ、れ。

「……タイミング、悪すぎ」

目が覚めたのはいつもと大体同じ、研磨君が起きるのより遅い時間。せっかく最初に言えると思ったんだけど……。少し肩を落としながら鳴らずに終わった携帯のアラームを消そうとしたところで研磨君から何を言いかけてたのかを問うメッセージが届いていたものだから、つい電話をかける。

”もしもし”
「お、おはよう!あのね!」
”あ、クロ。ちょっと待って”

クロ。そう聞こえた。こりゃ一番最初には無理だったか……まあ仕方ない。仲良くなれただけ儲けものだと頭を振って切り替えた。

”それで?”
「うん。あのね、研磨君。お誕生日おめでとう」
”……クロ”

情報の出所を察したのかそう呟いたあとに遠くで何かを黒尾君が喋るのが聞こえた。まだ学校にはついてないのだろうか。

「それだけ言いたくて。本当は夢で一番に言おうかなーって思ってたんだけど」
”一番だよ”
「え」
”家すぐに出てきたしクロはいっつも昼休みにみんなで祝ってくるから”
「……それは、その……なんか嬉しいですね」
”そう”
「あーっと、それじゃあ……またね」
”うん”

ありがと

prev / next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -