夢見 | ナノ




突如風景が変わる。職員室に研磨君。毎夜会うのに今日は放課後も会ったから更に不思議な気分だ。ちなみにこれだけいつも会っているのに別段、私たちの距離感に変化はない。もう少し言葉を交わすようになってもいいんじゃないか、と思ったりもしたけど黒尾君とのやり取りを見たところ慣れれば口数が増えるという訳ではないらしい。

(けどやっぱ雰囲気とか違うんだよなぁ……私まだ微妙にビビられてるし)

「部屋、回ろっか」
「うん」

上の階はまだ安全か分からないし、と一番下の階から回ることになった。一階。すぐ外に出れる筈なのに出れない。孤爪君に試してみればと言われるがまま私も敷地外へ足を踏み出し、見事に中へ帰ってきた。
お先真っ暗と落ち込みながら歩いていくうちに見えたのは放送室だった。ここの鍵あったっけという意味も込めて孤爪君を見ると彼が静かにノブを回した。ガチャン、と音をたてて戸が動きを止める。どうやら鍵がかかっていたみたいだ。手持ちの中にも鍵はなく、そのまままっすぐ廊下を進んだ。
すぐに次の部屋札が目に入る。保健室。ここもパスするという話だった。その側にあった事務室のノブを孤爪君が握る。すんなりと開いた扉を抑えて、ゆっくり中を見回した。事務室は見たこともなかったので、こんなにも生活感溢れるスペースなのかと驚くと同時に少し安心した。棚に入ったお茶っ葉やお菓子に妙に
落ち着きを感じる。私も何か探してみようと一歩踏み出した瞬間、ぶつっと回線を繋いだような音が耳に入った。
二人してハッと見上げたのは学校のそこかしこに設置されているスピーカー。だってそこから聞こえたから。ごくりと息を飲んだ。

”…………”

声はない、けれど無音ではなかった。じわりじわりと雑音の音が大きくなっていく。迫りくるように暴力性を増すそれに、背中をあけていることが怖くなり事務室の扉を閉めて鍵をかけた。カチャ、という音をたてると同時にふっと雑音が消える。

”鍵をかけても無駄だよ”

「ひっ」

口を抑える。額に、背中に汗が浮かんだ。足が震えて動かない。後ろを見る余裕もドアから離れる気力も無かった。

「っ……」

確かに、鍵はかかっていた。あの時既に中に居たのか、それとも私が事務室を覗いている後ろを通って行ったのか。どっちだってそんなのもうどうでもいい。私、というよりも私の後ろのドアを見つめていた孤爪君が立ち上がって前に来た。

「こっち」

目の前に差し出された手を咄嗟に両手で握り締める。黙って彼は事務室の奥まで進むと床に座った。手を握って居た私も同じように座布団の上に腰をおろした。また泣きそうになって慌てて外した手で目元を擦る。

「どうする……放送室、見る?」
「取り敢えずこの部屋を探索しよう」
「分かった。あの、ありがとう」
「、うん」

怖さを紛らわせるように部屋にある物を片っ端から見ていく。いつまた喋り出すか分からないスピーカーに怯えて、物盗りみたいな挙動不審な動きになっていたと思う。物音だけが部屋に響いて数分、もう大丈夫だろうかと肩から力が抜けた所で事務職員の名前が目についた。


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