夢見 | ナノ



「え」
「だから、明日の放課後あけといて」
「いや、それは……分かったけど。そっか、他に話してる人いたんだ」
「うん。明日は部活早上がりだから。迎えに行く」
「ありがと……」

夢の中での唐突な誘いに頷いたものの、明日実際に彼と会うのだと考えると不思議な感じがして。その日は取り敢えず、手に入れた鍵の確認だけ済ませ、職員室でゆっくり過ごすことにした。


「なんかそわそわしてない?」

翌日、このセリフを友達に何度言われたことか。

「あの、友達と遊ぶ約束あってさ」
「へー。授業中怒られるなよー」
「大丈夫だって」

そういえば、孤爪君の言っていた訳を話してある友人ってどんな人なのだろう。類友とは言うけれど、案外正反対の人との方が相性良かったりするし。孤爪君みたいな子か……正反対だったら、お喋りで目立ちたがり?
悶々と悩みながらいるといつも以上に学校が長く感じて、さようならのかけ声で教室が賑やかになると同時に教室の窓に駆け寄って校門の辺りを覗いていた。よく見えないけれど多分まだいない。当たり前だ。向こうは終わってからこっちに移動するのだから。
先に行って待ってよう。何人かにばいばいと手を振り、学校名の入った柱にもたれかかる事五分。手持ち無沙汰になった私は空いた時間を使って集めたあの学校の情報を纏めたノートを開いていた。
予想通りというか、お決まりのようにあの学校は既に廃校となり取り壊されていた。場所はここから時間とお金をかければ一日で行って帰ってこれるぐらいの距離。取り壊されたのは割と最近のようで跡地には何も建っていないとか。

(昨日で5回目でしょ……研磨君は4回多いから、9回)

鍵のかかった部屋には入ってこれないと言っていたから私と会う前に似たようなものに追いかけられたのだろう。しかも1人で。なのに学校も部活もこなしてる。私も特に普段の生活に支障はないけれど、運動部なんてハードな練習を毎日のようにする部活をしてる彼とじゃ使うエネルギー大違いだ。

「なまえ」

名前を呼ばれてこっちに引き戻されると同時に、思ったより近くにいた男子学生二人に驚いてノートを落とした。それを拾ってくれたのは孤爪君の隣にいた背の高い男の子。孤爪君とは違う意味で頭の回りそうな、処世術を理解してそうな子だ。

「ありがとう、ございます」
「どーいたしまして。音駒3年でこいつの幼馴染の黒尾鉄朗だ」
「雪蔓第一3年、みょうじなまえです」

自己紹介をして差し出された手を握ると孤爪君が一瞬私に視線をやって、すぐに逸らした。

「ちなみにこいつは2年な」
「えっ」
「……クロ」
「なんだ、言ってなかったのか」

じろりと彼に向けられた顔を見て、ああ孤爪君もこういう表情とかするんだなぁとなんとなく思う。

「私ばっか助けられてるから、ちょっと吃驚したよ」
「へーぇ。ま、取り敢えず揃ったとこで移動すっか」

賑わうファーストフード店に入ると少し孤爪君が嫌そうな顔をしたけれど、席取りをするといって携帯ゲームを始めるといつも通りの無表情になった。私は私で、孤爪君の分の注文も請け負って並ぶ黒尾君の横でぼーっとメニューを眺めていた。お金の計算が面倒なので別々にレジで注文してバラバラに孤爪君の元へ戻る。

「研磨、そろそろセーブしとけ」
「ん」
「みょうじさん、だっけ。早速だけどその夢に関して何か心当たりあるか?」
「ううん、突然だったから。あの学校に通ってたとか見たことあるって訳でもないし」
「だよな。んで研磨、昨日はどうしたのかまだ聞いてねーけど」
「鍵確認して、職員室で時間潰した」
「どこの鍵」

黒尾君の言葉に孤爪君が面倒くさそうな顔をした。いつもの事なのか黒尾君は気にしてないようだったけれど。

「わーったよ。みょうじさん、教えてもらっていい」
「うん。えっと」

さっきのノートをパラパラと捲り彼の前へ差し出す。

「これで全部だよ」

音楽室、化学室、生物室、物理室、調理室、視聴覚室、体育館、裁縫室……。随分と数があったから全部書ききれているかは怪しいけれど、少なくともここにある分は確実だ。

「ねぇ、そのノート何?」
「えっと……今回のこと、何があったかとか纏めてて」
「はー、やっぱ女子はマメだな」
「私ビビリだから、その場で咄嗟の判断出来ない分、これぐらいしておかないと混乱しちゃって」
「へぇー。って、おい」
「?」
「みょうじお前、学校まで調べたのかよ」
「えっ、あの」

急に苗字を呼び捨てされたのと大きな声があがったのとで驚いて持っていたポテトを落とした。

「職員室に学校名の入った名簿が……」

同意を求めるように孤爪君を見るとあったね、と一言。

「全然知らねぇ学校だな」

学校について、それからその学校……廃校にあるらしいという噂(掲示板で聞いた信憑性の余りないものではあるけれど)を頼りに次はどの部屋へ行くか話し合った。

「どこも何かいそうだけど……」
「まぁだよな」

ノートを真ん中に黙々とハンバーガーを食べる。孤爪君だけジュースをテーブルに置いたままゲームに熱中している。

「職員室は他に何もなかったのか?」
「置いてあったノートとかは中身が真っ白で、学校名と鍵以外はなにも」
「そうか。化学室はあぶねー感じがするな」
「薬品とか残ってたら心配だもんね……うーん、特に危なさそうな教室は避けて探索かな?どこに何があるかもイマイチ分かってないし」
「研磨はどーだん」
「いいと思うよ」
「じゃそれで。何か悪いな、俺らが情報貰ってばっかで」
「ううん、1人じゃないってだけで凄く安心だから。それに私も凄く助けられてる。孤爪君、本当にありがとう」
「、……別に」
「照れんなよ、研磨」
「やめて、クロ」

乱暴に頭を撫でつける黒尾君の手を孤爪君が嫌そうに払った。なんだか猫と構いたがってる飼い主みたいな感じがした。


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