夢見 | ナノ



今まであったことをノートに書き留めてみた。時刻は午前2時過ぎ。目標は徹夜だ。夢のために徹夜なんて、なんだか自分で滑稽な事をやっている気分。

「はぁー」

家にあったゲームを久々にやってみたけれどクリア済みのそれはすぐに飽きてしまい、録画していたアニメやドラマも特になく、逃げるようにパソコンをつけた。それも飽きが来て、今までの事を書き留めて思ったのは、たまたま続きを見ただけで、あれはただの夢なんじゃないかってこと。まるで私と孤爪君が同じ夢の中にいるみたいに考えてたけど、その考えの方が普通じゃないんだ。もしかしたら次は全然違う夢なのかもしれない。

「本当にいるのかなー」

はぁぁぁ……と大きくため息をついて頬杖をついた瞬間、唐突に眠りが迫ってくる。どうしよう眠い、すごく眠い。でも寝ちゃったら、ああでも少し目を閉じるだけ……少しだけ。

「……」

ぼんやりと目の前に座る彼を見た。染めっぱなしの金髪、猫目、ブレザー、無口。何も変わらない紛れもない孤爪君の姿。彼にふいと視線を逸らされて初めて自分の状態を思い出した。

「あ、寝ちゃった」
「……強制的に、眠らされる」
「え?」
「俺も駄目だった」
「……そっか」

4回も連続で見る夢。いよいよ馬鹿みたいな考えが信憑性を増してきた。

「孤爪君、疲れないの?寝ても休めないんじゃあ」
「体は疲れない。いつも通り、部活できるし」
「部活?何やってるの?」
「バレー」
「意外にも運動、部……あ!もしかして赤いジャージ!?」
「えっ……そうだけど」

急に大きな声をあげた私にびくりとして身を引いてから頷いた。うわぁこの子めっちゃ人見知り?

「いや、前に孤爪君っぽい人見かけたから……かっこいいよねぇ」
「別に。目立つし」
「そっ、か」
「いつまでも此処に居られない。脱出しないと」
「でも、どうやって」

この夢が始まった日、その前の数日間も含め特に変わった事はなかった。原因は分からない。校門からもフェンスからも出られない。外にはこの間みたいなのがうようよしている。

「ゲームだと思えばいい」
「ゲームと違って、脱出するためのヒントがある訳じゃないんだよ?」

確かに私達は夢でだけ拘束されている。起きている間は無事だから、つまりは何処かに隙があるかもしれない。けれどゲームのように脱出口へと繋がるヒントが転がっている訳でもない。鍵を手に入れるためのなぞなぞも無ければ、真相に迫る秘密が隠されているわけでもないのだ。

「でも、このままじゃ困る」
「……そうだね」
「行こう」
「う、ん」

多分ここで首を横に振ったら置いていかれると思った。そんなの嫌だ。ここが絶対に安全だと決まったわけじゃないのに。

「ここ出たら、どこに行くの?」
「職員室」
「分かった」

会ってすぐに助けてもらったからなのか、勝手に親近感というか頼りにしてただけあって、実際の距離感が辛い。もし後ろをついて歩いている私がここで黙っていなくなっても、孤爪君は一人で先へと進むだろう。まぁこんな足手まといじゃ当たり前か。
今もびくびくしながら歩いて、前にいる孤爪君が確認済みに決まってるのに扉のガラスの向こうにある教室が気になって仕方ない。階下へ降りる時にちらりと廊下を振り返った。よかった、何もいない。ほっと胸を撫で下ろして忍び足で階段を下っていく。踊り場に鏡のある階段じゃなくて本当に良かったと思った。
辿り着いた職員室の扉には鍵はかかっていない。整然と机の並ぶこの部屋にも人はいなかった。ちょうど近くの机の上にあった生徒名簿を調べると、この正体不明だった学校の名前が書かれている。起きたら調べてみようとメモを取ろうとして何も持ち帰れないことに気付いた。

(覚えなきゃ……)

学校名を暗記しようと頭の中でぐるぐる繰り返しているうちに、他の教室の鍵を見つけた孤爪君がそれを全部手に取った。理科室に家庭科室、やたらと嫌な予感のするものばかり。

「なまえ」
「は、はいっ」
「……選んで」

距離感があるくせにこうやって名前で読んでくるから不思議な感じだ。ばらっと広げられたそれに目を通そうとした時意識が切れた。ああ、朝だ。


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