ヒロアカ連載 | ナノ




あ、やばいと思い頭を仰け反らせたものの、ものっそい勢いで飛んできたチョークが頬にクリーンヒットした。

「......ッ!!」


休み時間。
鏡を見ながらチョークの後を落とす私の元にわらわらと言葉がかけられる。

「みょうじちゃん、凄かったわね」
「お前めっちゃヘドバンしてたぜ!眠いからってあれはねぇだろ!」
「ヘドバン......頑張って眠気と奮闘した私にそれはひどくない」
「ヘドバン......ふふ」
「ヘドバン......ぶっ」
「そこ笑うな!」

そりゃあ私が悪いけれども!かっくんかっくん首を揺らしていたけれども!ねむいのは生理現象だし半分はねむい授業をする先生が悪いことにさせていただきたい。

「みょうじ」
「え......ウエットティッシュ。貰っていいの?」
「教室にあるやつだから別にいいだろ」
「あったんだ」

勢いよくぶつかったチョークは手でもティッシュでも落ちなくて、洗うしかないと思っていたのでありがたい。

「どこにあったの?」
「ロッカーの奥」
「まじか。よく見てるのは轟くんのほうじゃん......お、落ちた!ありがと」
「ずいぶん眠そうだったのによく体が動いたな。そういう訓練してんのか?」
「え、訓練ですか。してないですね」
「じゃあ元々反射能力が高いんだな」

イケメンに見つめられるのは照れるものだけれど、避けられなかったチョークひとつでここまで真剣な顔をされると一周回ってなにもドキドキしなくなってきた。

「別に反射っていうか、あっそろそろやばいわーって思ってたら先生が動いたから避けようとしただけだよ」
「......どういうことだ?」
「気になる?」
「ああ」
「話すのでさっきの授業のノートを見せてください」
「......」
「......」
「今回だけだからな」
「ありがとう!!」


約束を取り付けたタイミングでチャイムが鳴り響いた。待ってろ、と席から先の授業のノートを取ってきて渡してくれる。

「飯、食堂でいいか」
「ああ、うん。いいよ行こっか」

話すって言ってたから故のお誘いだと察してさっさと席を立つ。

「ノート今日中に返せばいい?」
「ああ」
「お昼なににしよっかなぁ」

ここのメニューはどれも絶品だ。これにしようと決めていてもなお、いい香りに誘われてあれやこれやと悩んでしまう。

「轟くんは何にするの?」
「そば」
「そばか、さっぱりしてていいなぁ。何そばが好きなの?」
「ふつーの温かくねーやつ」
「おお、素材の味を嗜んでる感あるチョイス」
「うまいぞ」
「じゃあそばにしよう」

デザートももらってくる、と一度はぐれた私が轟くんの元に戻ると、律儀にも待っていてくれた彼の隣にいた女子生徒がそわそわしているのも一緒に見えた。なんだか私もそわそわしてしまうなぁ、なんて思っているとぱちりと轟くんと目があった。

「ここ座れ」
「うん、ありがと」

そわそわ女子の視線がこちらに向く。確かに一緒にご飯食べてるけど、同じお蕎麦だけど深い意味はないんだ!だからあまりこいつは何処のどいつでどういう関係なんだろう、なんて観察するように見ないでほしい......。

「えーっと授業中の話だよね!」
「ああ」
「ノート借りた今になっていうのもなんだけど、正直大したことじゃないし話すほどのことかな?」
「俺はあの時お前より気付くのが遅れた。何が違うか知りたいんだ」
「熱心な」
「そりゃそうだろ」

そういうものだろうか。いや、そうかもしれないけれど。何から話したらいいのかわかりゃしない。

「なんで先生の挙動に気付いたんだ」
「えっと、私意識飛んだり戻ったりしながら眠気と戦ってたわけ」
「ヘドバンてやつか」
「ヘドバンはそれ違うやつだから!」
「そうなのか?」
「ヘドバンは、ライブとかでリズムに合わせて頭を大きく振る動作のこと。私がかっくんかっくんしてた動きが似てたからそう言われただけ」
「あんなに頭振んのか。ハードだな」

蕎麦を口に運ぶ動作を止めて目を丸くする轟くんの、少し深刻そうな顔から飛び出したコメントに思い切りむせる。

「大丈夫か」
「轟くん、面白いところあるよね」
「初めて言われたな。で?」


ぐいぐいくる轟くんに、いかに先生のチョークを予見したのかたっぷり話す羽目になった私は、なんの話だと言わんばかりの隣にいる女子生徒からの視線にも耐え、要望に答えたのである。
ちなみに私が話している間にさっさとそばを食べきった轟くんは、話し終えてやっと食事にかかろうとしている私に先行くぞ、と一言去って行ってしまったのだった。





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