ヒロアカ連載 | ナノ



雄英高校を前に息をついた。


説明しよう!
私、どこにでもいる20代会社員・女性のなまえは、ある日突然漫画の世界にやってきて、目が覚めると体が縮んでしまっていた!!!

強くてニューゲームかと思いきや運動も勉強もひいひい言いながらこなして、私はついに!メインキャラの多く在籍するヒーロー科に入学したのだった!!!



導入はここまでにして、私のため息の理由はこの制服と後悔にある。だってヒーロー科めちゃくちゃ忙しいしめちゃくちゃ厳しそうだしめちゃくちゃ大変な展開に巻き込まれてくし。もっと楽すればよかったのかな。


「おはよー」

がら、と音をたてて教室のドアを開ける。まばらに返事があったりなかったり。
入学初日の洗礼を受けたわけだが、まだ少しぎこちなさを感じる部分もある。そんな私達に降りかかる今日の試練は、



「屋内での対人戦闘訓練さ!!!」


そう言い放った我らが国民的、いや、世界的ヒーローオールマイト。実物も随分と画風が違うというか、なんというか。

「ひえ、うららかさん、ぴっちぴち......」
「みょうじさん〜恥ずかしいから言わんといて〜」
「ま、まあ他の人も結構ぴったりめだし、露出が凄いのもあるし......」

ちらりと目をやったのは言わずもがな八百万さんだ。本人は堂々としているけれどやっぱり肌色が多い。

「みょうじさんは普通の服っぽいね!」
「そういう希望出してたから。芦戸さんは結構カラフルなコスチュームなのに着こなすねぇ」
「ホント!ありがと!!」


がやがやと外に出れば、女子同様それぞれ着替えを済ませた男子陣の姿。みんなして一度は八百万さんに視線が言っちゃうあたり、健全な男子高校生というか、いや、寧ろ女子でも見ちゃうんだから男子ならだれでもそうなるか。

コスチュームを見て話しているうちに今日の授業内容が伝えられる。


「先生」
「はいなんでしょう!」

ぴしりと真っ直ぐに手を挙げた八百万さんが口を開く。

「このクラスは21人、どのようにチーム分けをするのでしょう?」
「1チームだけ3人になります!他に質問ある人ッ!......うん、じゃあチームを決めようか」

チーム分けが始まると雑談の多かったクラスメイトもその組み合わせに集中する。私は、


「みょうじさ〜ん」
「あ、葉隠ちゃん......と尾白くん!」
「よろしく」
「よろしくね」

目の前で揺れる靴や手袋。見えないだけでここに素っ裸の葉隠ちゃんがいると思うとなんだか恥ずかしさがこみ上げてくる。

「えーっと、私達は障子くんと轟くんペアから核を守りきればいいんだよね」
「ああ。ちなみにみょうじの個性って?」
「ああ。尾白くんは尻尾で、葉隠ちゃんが透明、私だけわかりにくいよね。私の個性は物を移動させる個性、かな?」
「えーっ、それってテレポートみたいなってこと!?」
「うん。ただ移動させることのできる範囲がこれくらいだから、生き物もオッケーだけど人はサイズ的に無理かな」

そう伝えて作戦を練っていると、ついに葉隠ちゃんが装飾品を全て外してしまった。これは簡単には気付けない、完全にステルスモードだ。


「あ、あのさ。私、核の部屋に居てもいいかな」
「ああ。何か策があるんだったら聞いても?」
「策というか、足止めや奇襲は2人の方が向いてそうだから、消去法かな。あの部屋物も多いから撹乱できるかもだし」


そうやってわいわい作戦を立てるのは少し楽しかった。建物ごと、凍りつくまでは。


「は、......」

ほう、と吐き出した息は冷たい。かなり冷たくはりついた足が冷えていくのがわかって、葉隠ちゃんが凍傷になってやいないか胸の中が騒ついた。
とはいえ、まずは自分だ。さすがに動けないのは困るので、靴の周囲の氷を転移させて自由になった足で軽くジャンプした。

(この様子じゃ、2人は戦闘不能かも)

そんな考えが浮かんだ矢先、氷を踏みしめる足音。そっと核に手をついて、部屋の入り口を見つめた。


「......抜け出したのか」
「轟くん......私の仲間は?」
「足を凍らせた。何もできないだろ。お前もそうなってる予定だったが」

すっと彼が手を動かす、抜け出した私の足をまた、さっきよりも分厚い氷が覆った。

「あんま長引くと凍傷になるぞ」

降参を促すような言葉に少しばかり、元年上としてカチンときた。こんなにあっさりと負けてしまうのが悔しいという小さなプライド。

「降参するのはそっちでしょ、ヒーロー」
「まだ引かねぇのか」

私の意思を汲み取って敵意を滲ませた彼に、鋭く言葉を飛ばした。ちょっとルール的にありかは分からないけど。

「動かないで!!」
「、」
「少しでも怪しい動きをしたらこの核をここでぶっ飛ばす!!」
「な」

目の前のポーカーフェイスが崩れて目が見開かれる。あ、なんか気分いいかも。

「ゆっくり向こうを向いて」
「......」
「聞こえない?ここでどかん、が嫌なら言うこと聞いて」

ぐっと眉間にしわを寄せた彼が背中を向けた。

「ねぇ、この氷溶かすこととかできる?私の仲間を解放して欲しいんだけど」

そう話しながらまた、個性を使い足を自由にする。

「できねぇ」
「......」
「本当だ。悪いが凍らせる能力じゃ溶かすことはできない」
「そっか」

意外とうまくいったけど、このままじゃタイムオーバーだ。こう着状態がいいとは思えないし葉隠ちゃんが可哀想だ。
手元に呼び寄せたロープを握る。本当は障子くんがきてから互いを縛らせて、違う場所に行かせてっていうのがいい筈なんだけど。そんなの待ってられない。

「手を後ろに回してる動かないで」

言われるがまま従う彼にロープをかけようとした瞬間、体が傾いた。

「ぐっ」
「悪いな」

いとも容易くひっくり返された私の体はどう足掻いてもびくともせず、無情にも私は捕縛されてしまったのだった。





「そこまで!!」




オールマイトの声がした。と同時に私の上から退いた轟くんが優しく体を起こしてくれる。

「ありがとう。あと葉隠ちゃんの位置知ってる?」
「ああ。それならこれから溶かす」
「へ」

彼が片手を壁に着くと、じわじわと暑さが広がっていき氷が溶けていく。

「言ったろ。凍らせる能力じゃ溶かすことはできない。けど半冷半燃の俺のもう片方の個性なら」
「そっか。轟くんは嘘ついてないのに私が騙されちゃったのか」
「そんなとこだ」
「ありがと、轟くん!!」

お礼を言って部屋を出る。階段をかけ降りると、ちょうど尾白くんが葉隠ちゃんに声をかけているところだった。

「葉隠ちゃん、足へーき!?」
「寒かった〜!でも少ししたら大丈夫そう!」
「みょうじさんも大丈夫?」
「大丈夫。よかったぁ......あ、この後も見学だよね。よかったらこれひざ掛けに使って」
「みょうじちゃん紳士〜〜ありがとう!!」

脱いだパーカーを渡してみんなで元の場所へ戻る。おそらくは轟くんの圧倒的な個性に驚いたのだろう、こちらを向いたみんなは少し呆けた顔にも見えた。


「それじゃあ講評といこうか。誰か何かある人」
「はい」

手を挙げたのは、先の戦いの講評も述べていた八百万さんだった。

「双方どちらも、それぞれの個性の特性に合った配置だったと思います。障子さんの索敵能力を考えるとややヒーローチームが有利なように見えましたが、決め手は轟さんにより氷漬けになったことでしょう」
「うんうん、そうだね!」
「その後のみょうじさんですが、......途中までは非常に有効的な進め方のように思いました。正直なところ、私は考えつかなかった策です。ですが後半、轟さんの個性に対する具体的な策のないままに不用意に近付いてしまったのが敗因の1つではないかと」


なんか自分の振る舞いを見られて、しかもコメントまでもらうってなんだか恥ずかしい。少し背筋を伸ばして聞いていると、葉隠ちゃんがナイスプレー!と小声で小突いて笑ってくれた。


「ありがとう!みんなもみょうじくんと轟くんのやり取りは気になっただろう。みょうじくん、なんでああいう手に出たのかな?」
「轟くんの個性がはっきりしないので余り近付きたくありませんでした。それと、核を所持しているということは敵は綿密に計画を持ってことに及んでいるはず。そこを追い詰められたらあの様な自暴自棄な行動に出るのは自然だと思いました」
「なるほど、とてもいい読みだ。確かにヒーローに追い詰められると、今回の核然り、自分含め周りを巻き込まんとする敵は多い!これを刺激しない様言葉に従った轟少年もナイスプレーだったぞ」
「ありがとうございます」
「さて、みょうじくんはヒーローとの接近を警戒していたのに自ら近付いたね。それは仲間を気にしてかな?」
「......はい。葉隠ちゃん、裸足だったのでのんびりできないと思って」
「そうか。ヒーローは助け合うことも大切。その気持ちを大切にしてほしい」


ぽんぽん、と頭を撫でられて気恥ずかしさが湧いてくる。隣からのありがとうという声にはにかんだ。


「もし時間があったらどうしていたかな」
「障子くんを呼んで互いを縛らせます。それから障子くんを人質に轟くんを別室に隔離、ですかね。そこは余り考えてませんでした」
「なるほど」


私の言葉に頷いたオールマイトは、それじゃあ、と言って実際に人質を取られたケースの対応に関していくつかを話して、私達への講評が終わった。

関心が次のグループへと移ると、途端にどっと気怠さがせり上がってくる。つい張り切ってしまったけれど、このペースで体が、いや、やる気が持つのだろうか。
壁に寄りかかって中継モニターを見上げる。もちろんヒーローとして活躍したい気持ちが無いわけではない。この個性社会で活躍する彼らの姿を見てきたし、ここに来るまでも努力はした。けれど拭えない小さな後悔が私を憂鬱にさせる。


(まぁ限界がきたら考えればいいか)


全ての訓練を終えて、いつもより長いような短いような1日が終わった。反省会の誘いを断って教室を後にする。
ローファーに足を通してつま先をとんとんと、校舎を出るとカラフルな髪色が少し離れて見える。


「轟くーん」
「......みょうじか」

少し音量を上げて声をかけると、丁寧に足を止めて待っていてくれる。

「今日はお疲れ様。みんな凄い個性ばっかりだったね」
「そうだな」
「でもあの中だと最初の一戦が1番激しかった......色々と」
「あいつら仲悪いのか」
「仲悪いというか、お互いの譲れない部分がぶつかってるんじゃない?あ、でも爆豪くんは敵意増し増しだけど」

からからと笑ってそう言うと、隣からの静かに視線が降ってくる。こちらも顔を向ければ、ちらつく痛々しい傷跡をもってしてもやはり整った目鼻立ちが視界に入った。

「お前、よく見てるな」
「そう?」
「今日の訓練もだが、色々考えてんだなって思った」
「えっ嬉しい。ありがとう」
「ああ」


視線が逸れた横顔は変わらず、思ったままに話しているのだろうけれど、

(天然記念物みたいなぴゅあっぴゅあイケメンかよ。漫画じゃあるまい......漫画だったわ)


「轟くんはいい奴だね」
「なんだ。急に」
「あとかっこいい。外身も中身も」
「......ありがとう」

急になんだこいつって顔をした彼は、私が1人満足して返事をする気がないのに気付いてか、またすっと元の表情に戻った。
私も自己満足で言ったわけで反応が欲しかったわけじゃないけれど、本当に照れも謙遜も、うんともすんともしないなこの子。




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