君指 | ナノ



主に聞かれたのは私の個人情報ばかりだ。どの学校のどのクラスだとか、どこに住んでてどんな家族構成だとか。けれど別にやましいことが出てくるわけなく、まるで膠着状態になってしまう。

「このまま話とってもしゃあない。鍵を使えそうな場所探しに行かん?」
「確かにそっちのが早そうだな」
「なら俺が行く」
「放送を聞いた限り、霧崎の生徒は花宮さん1人。他の方はいないと思いますが」
「バァーカ、んなの分かってんだよ。てめぇらに任せらんねぇから言ってんだ。他はテキトーに編成しとけ」

立ち上がった彼が体育館倉庫へ入って行く。確かに、赤司君と花宮君は同じ学校の人がいないみたいだ。一体全体どんな人選なんだ、というかそもそもなんで私まで……。
そんなこんな考えているうちにがたがたと音がして、それから出てきた彼はバットを手に持っていた。確かにさっきの事を思い出すと持ってたほうが安心できるかも。

選ばれたのは秀徳の黒髪君、黒子君、赤司君、海常の主将の人、そして花宮君。

さっきの花宮君だいぶ怖かったから逆にちょっと安心感があるけど、数少ない自己紹介し合った黒子君と赤司君が行ってしまうのは少し不安だ。けれどじゃあ私も行きますなんて言いいたくもないので黙って空いた場所にぽつんと腰を下ろす。

どう校舎を回るのか打ち合わせしているらしい彼らをぼーっと眺めていると、不意に横から肩を叩かれた。

「随分質問責めにされたいたけれど、大丈夫かい?」

すっと切れ長の目をした、さっき私が校舎で合流したメンバーの中にいた、えーと、海常の人だ。

「大丈夫です。先程はどうも」

ありがとうございました、と言い切らないうちに流れるように手を取られる。ん?あれ?

「君のような可憐な少女があれ程の恐怖を堪えていた事に気付けなかった自分が愚かしくて申し訳ない。だが!君に最初に出逢えたのは運命だ!心配しなくても大丈夫。何があっても俺が君のことを守り通すよ」
「えっ……と、じゃあ、無理のない範囲で、ぜひ」

守ってもらえるのはありがたい、と軽い気持ちでそう返すと目の前の彼がぱぁっと明るい表情を見せる。よく見ると中々のイケメンだ。赤司君がかなりの美青年過ぎて全然気付かなかった。

「無理のない範囲で、なんて気を遣ってくれるんだね。ああ、なんて優しくて素敵な女性なんだろう。俺は海常高校3年の森山由孝。由孝、と呼んでくれ」
「あ、いや、私年下ですし……」
「なら、由孝先輩と」
「はぁ、それなら、まあ……?」
「いやいやいや何してるんスか森山先輩!」
「みょうじさんもそんな簡単にナンパ男に頷いちゃ駄目よ!まさか普段もそんな感じじゃないでしょうね!」

がしっと両手を握られたところで海常の金髪の人と相田さんが割って入ってくる。

「いや、ナンパされてませんよ?」
「ええ!?」
「確かに珍しくかなりのフェミニストな先輩みたいですけど」
「いや、どう見ても違うでしょ」
「ああ。ナンパなんてとんでもない。ひと目見たときから美しいと思っていたんだ」

そう、ナンパ男みたいにお茶しようだの連絡先だのを強要されてもなければしつこくもない。此方を気遣ってくれるいい人だ。うんうんと頷いていると金髪君が由孝先輩の肩を揺さぶる。

「だーかーらぁ、この子紫原っちが怪しいかもって言ってたんスよ!?」
「……ん?いやちょっと待ってくださいよそこの金髪君!私が怪しいってどう言う意味ですか!!」
「だってそうじゃないっスか!それともバスケ部ばっかなのになんで関係ないあんただけ居るのか説明してくれるんスか!?」
「そんなの知ってたら言ってるもん!大体私が犯人だとしてどうやって全員運んだわけ!?てかあの変なやつなんなの!?なんで私ばっか責められるの!?」
「それは、他になんか、仲間とか!居るんじゃないっスか!あの変なやつだってこっちが聞きたいくらいっス。とにかく俺の先輩にも友達にも近付かないで欲しいっスね」
「なにそれー!私ぼっちでぽつーんと座ってろって言いたいわけ!?仲良くなるなとかお母さんなの?厳しいお母さんなの?」

この金髪君むかつく!むかつく、けど……怖い!こっち睨みつけてくるし金髪だし……よく見たらピアスあいてるし!

「まあまあ、お二人さんどうどう。この子の事は保留言うたやろ?」
「……俺は信用しねーっスから」
「みょうじちゃんもあんま食ってかかったらあかんで。今は団結せなあかん所やさかい。ワシは桐皇の今吉翔一、よろしゅうな」
「……」
「みょうじちゃん?」
「……や、」
「や?」
「や、やってしまった……」

森山先輩を引っ張って去っていく金髪君、思いばオーラがあると言うか。とってもヤバい相手に噛み付いてしまった?
顔面蒼白になっていく私の様子を伺うように、今吉先輩が顔を覗き込んでくる。

「いっ今吉先輩……今の、今の金髪君ってもしやヤンキーでは……っ!」
「…………なんでそう思うん?」
「だって金髪だし、さっきの金髪の、えっと秀徳の人も怖かったし、今の金髪君ピアスもあいてるし、睨みつけてくるし!あれは只者ではない……刺されそう……」
「ヤンキーでもないし、刺されんて」
「ほんとですか?」
「ホンマもホンマ。ただ金髪で口がすこぉーし悪いだけや。それに今の黄瀬クンモデルやっとるで?みょうじさん知らんの?」
「読モとかですか?私あんま読まないんで。そっかヤンキーじゃないのか。よかったぁ〜」

ほっと胸を撫で下ろすと、今度は体育館の扉が思い切り開いてついさっき出ていったばかりのメンツが戻ってきた。そう、怒れる花宮君を先頭に。

「みょうじテメェ!!」
「ひぃいいい!!ははは花宮君怖いいいいい」
「煩ぇ!つか俺はお前の一個上だ。先輩つけろ!」
「わかった付けるからどっ怒鳴らないで下さいってばあああ」

ずんずんと近付いて来た花宮く、花宮先輩の手には出て行くときも手にしていたバット。それも相まって怖い。

「なんでこっち来るんですか。わっ私バットで頭かち割られるんですか!?」

反射的に今吉先輩の背中に隠れると更にその表情が恐ろしいものになっていく。やべぇ、金髪君怖いとか言ってたけど花宮先輩が一番やばい。絶対やばいこの人。

「花宮、そんな顔してたらあかんで。みょうじちゃん怯えとるやん」
「いいからそいつ渡して下さい」

今吉先輩の制止の声も全く届かずぐっと私の肩を掴んだ花宮先輩がブレザーのポケットに手を突っ込んだ。

「え?えっ?」
「チッ、やっぱりか」

すぐに出てきた大きな手に握られた鍵は、さっきのものと同じようにしか見えない。

「2個目の鍵?」
「1個目だ。暫く校舎進んでたら鍵が消えたからまさかと思って引き返して来たが……」
「まっ、待って下さい。それってまさか」
「ふはっ、察しがいいじゃねぇか。みょうじちゃんよォ」

鍵を持ってったのにいつの間にか手元から消えて、私のポケットの中に戻ってきていた。ということは、

「探索、お前にも来てもらうからな」


prev / next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -