君指 | ナノ



「……」

お遊戯会でもハンカチ落としでもないのに綺麗に円になって座る私達。赤司君の前に置かれた、ごく普通の銀色の鍵。そして私に注がれる視線。


引き金は私の一言、いや、そもそもこの鍵のせいだ。


中々鍵は見つからず、壁に寄りかかってブレザーのポケットに手を突っ込む。と、冷たい感触があった。

「…………かぎ」
「えっ何、鍵あったの!?」

オレンジジャージの黒髪君が大きな声をあげてこちらを見た。もちろんそれは体育館中に響き渡り、散開していた一同が私を中心に集まり出す。

「その鍵、どこにあったの?」
「ブレザーのポケットに……いや、私の家のじゃないですよ!?」
「見せてもらってもいいかな」

声をかけてきた特徴的な麻呂眉の人に鍵を手渡す。とはいっても何の変哲もない鍵から分かることなど何もない。赤司君が麻呂眉君に話しかけた時だった。

「てゆーかさぁ、あんた何でここにいんの?」

のんびりしたテンポの声なのに心に刺さる響きを含んでいた。多分、私に向かってなんだと思う。そう言ったのは紫髪の大きな子。

「俺、此処にいる人大体会ったことあるし全員バスケ部だけどさぁ……あんたのことは絶対知らないんだけど。閉じ込められてんのも全部あんたのせいじゃないの」
「紫原君」
「黒ちんだって変だと思うっしょ」
「確かに彼女は此処にいる誰とも面識はありません。ですがそれだけで彼女のせいだと決めつけるべきではありません」
「黒子の言う通り情報の殆ど無いまま判断を下すのは危険だ。だが、紫原の言葉にも一理ある」

赤司君の視線がこちらを向いて、さっと黒子君の後ろに隠れた。いやだって、無理無理無理。

「みょうじさん、話を聞きたいのだけど」
「むり。無理です」
「それは俺達に話せないことがあるってことかな?」
「いやいやいや、だってさ!何この空気!?お前誰だよどうせ犯人だろ感満載じゃないですか!怖!みんな怖っ!」
「けれど、皆が疑ってしまう状況なのも事実だから、犯人じゃないと証明するつもりで本当のことだけ話してくれればいいよ」

ね?と、麻呂眉君が私に近付いて微笑みかける。なんか笑い方が怖い。

「というか麻呂眉君も話し方丁寧だけどなんか怖いし!にっこり笑っといて本当はさっさと黙って喋れこのクソアマとか思ってるんだどうせえええ!!もうやだああああ!!」
「え、あの、みょうじさん?」

笑顔のまま固まる麻呂眉君と困惑気味な黒子君。けれど無理だ。人がいるからなんとか耐えてたのに。

「無理なの、怖いの。わかる!?わたし!お化け!無理なの!!人がいっぱいいるから我慢してたのにもうやだよおおお。夢なら覚めろ夢なら覚めろ夢なら覚めろ」
「ちょ、ちょっとみょうじさん落ち着いて頂戴?」
「あああ相田さんも怖いですよね?さっき追いかけてきたあれ怖かったですよね?なのに私犯人だと思われてるんですよ!誰が好きで自分まで追いかけて貰っちゃうんだよばかー!!」

半泣きで頭を抱える私の肩を誰かがぽんと叩いた。ギギギ、と音が付きそうなほど錆びついた機械みたいに後ろを振り返ると、そこには打って変わった表情の麻呂眉君。

「ひっ……」
「だったら直接いってやるよ。煩えんだよ、黙れこのクソアマ」
「っひいぃぃぃ!やられる!私の命が!此処追い出される!!餌にしてばら撒かれるうううう!!!」
「るせぇな!」
「うわあああああ!!!怒鳴らないでよおおお!!!!!」
「チッ、おい、誰かがなんとかしろ!」
「じゃあ君は下がっててください」

言われなくても相手にしてられっか、と怒った様子で麻呂眉君が離れる。ほれ見ろやっぱり怖いやつだった。

「みょうじさん、まずは落ち着いて下さい」
「おっ落ち着いて、落ち着いてられるかこれが……」
「黒子、代わろう。……みょうじさん、まずは俺を見て」
「はいぃ」
「先程は怖がらせてしまってすまない。君がそれ程怖がっていたことに気付けなかった俺の手落ちだ」
「赤司君は悪くないんです……あんなのろま引っ張ってくれて……すみません怖いぃ…………ううっ」
「言い方がキツかったこと、謝罪するよ。ただ皆が気にしているのもまた事実だ。だから、落ち着いたら各校の代表1人ずつだけ集めるから、質問にだけ答えてくれないか?」

私を座らせると、背中をさすりながらゆっくり赤司君が話す。少し、頭が回るようになってきた気がする。

「勿論言いたくない時はそう言ってくれればいい。君に強い言い方をし過ぎないよう、注意するよ」
「っ」

私の恐怖心を煽らないように細心の注意を払って話してくれる赤司君に、めんどくせーから黙れって思ってるんだろとか言えるわけもなくこくこくと頭を縦に振った。
そうして冒頭に戻る。
今私は、少し離れた場所で各校1人ずつ丸くなって座る彼らに形容しがたい視線を向けられているのだ。



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