明日の君と溺死 | ナノ


右に林藤さん、左に迅くん。前に玉狛支部。緊張した面持ちで促されるまま前に踏み出した。

「おーい、帰ったぞ〜」

ばらばらと少しずつ人が集まってきた。視線はもちろん、見ず知らずの私に向く。

「みょうじなまえ、20歳です。今日からよろしくお願いします」

小さく頭を下げて、ゆっくり顔を持ち上げた。立っている人はやっぱりよく分からないといった面持ちでこちらを見ている。

「新しい隊員ってこと?」
「違う違う。どちらかというと保護ってことになってるな。暫く玉狛支部で暮らすから仲良くしてやってくれ」
「はああああ!!?何それ、訳わかんないんだけど!」
「詳しいことはこれから話すから座った座った」

5.6人はいる中で席に座って事の次第を林藤さんがかいつまんで説明していく。突然私が本部に現れたこと、方法も理由も分からないこと、私の家や学校が存在しないこと、これから監視も兼ねてここで過ごすことになったこと。
みんなそれで理解してくれて、小南桐絵ちゃんだけが納得しきれていないようだったけれど、私はここでお世話になることがちゃんと決まったのだ。この玉狛支部に所属するメンバーは、今いない2人を入れて全員だそうだ。

「それで結局みょうじさんはネイバーなのか?」

真っ白な髪の遊真くんが私を見てそう聞いた。

「それが検査の結果トリオンが全くなかったんだよね」
「全く?それはどういうことだ?」
「トリオン量がゼロってこと。多分だけど、トリオン器官がない」
「そんな事が……」
「あの」

どうしても聞いておきたくて口を開くとざわつくみんなが一気に静まり返った。小さい声だったのに瞬間的に訪れた静寂がとても居心地悪い。

「ネイバーとか、トリオンってなんなんですか」

みんなが目を瞬かせた。そして桐絵ちゃんと栞ちゃんがジト目で両隣の2人を見た。

「ちょっと2人とも、まさかそんな基本知識も教えないでいたいけな女の子を此処まで連行してきたの?」
「ちょっと何考えてるのよ迅!」
「待って小南、なんで俺だけ」
「なんでじゃないわよ全く!」

庇って……いやこれは憐れまれている?というより2人が非難されている。わけが分からないと首を傾げていると、栞ちゃんが丁寧に1から教えてくれた。ネイバーやトリオンのこと、ボーダーの組織について。成る程これを聞くとさっきの会議の内容もちょっと分かるような気がする。

「説明は大体こんなところですね」
「ありがとう、えっと、栞ちゃん」
「どういたしまして〜」
「いない奴には俺から連絡入れとくから。この後買い出しを頼みたいんだが誰か暇な奴いるか?」
「買い出しって、今日から住むってことはだいぶ量があるんじゃないですか?」
「空き部屋はベッドがあるだけだからな。他に必要なものは全部買っとくか」
「必要なものねぇ、取り敢えず服と収納場所は欲しいでしょ」
「携帯とか化粧品とか?」
「歯ブラシとかも、ですよね」

あれもこれもと必要そうな物を口に出していく女子3人にさっと顔が青ざめた。そうだ、これからここでお世話ってことは全部お金も払ってもらうことになるんだ。

「さ、最低限でいいです……や、安いの適当に」
「ああ、遠慮すんなって。本部からこれ、貰ってるから」

指で丸を作った林藤さんがニヤリと笑った。

「え、本部から降りたの!?」
「あの後なまえちゃんにはちょーっと悪いんだけどな、危険因子を預かるっつー任務なんだからってゴリ押ししてきた」
「じゃあ決まりね!さっさと買い物行くわよ!荷物も多くなるから全員着いて来なさい!」
「あ、俺は昼寝中の陽太郎と留守番だから。年長組、引率よろしく頼むぞ〜」

別室に行ってしまった林藤さんを除く全員で買い物。となると随分な大所帯だ。賑やかなみんなの様子に少し緊張が解けたように感じたけれど、籠に入れていく商品の量を見てまた顔がまた青ざめていったのは言うまでもない。



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