明日の君と溺死 | ナノ


「ただいまー」
「あ、お帰りなさい。迅君」
「おかえりー」
「仲良くガールズトークでもしてたか?」
「ガールズトークしようにもなまえってば全然洒落っ気も恋話もないのよ」
「だって無いものは無いんだもん……別に桐絵ちゃんが話してくれればいいのに」
「私だってないわよ」
「絶対あるでしょ。こんなに可愛いのに、ねぇ、迅君」
「か、かわっ……!」
「確かに小南のそういう話は聞かないなー。みょうじさんがないのもビックリだけど」

あ、そうだ。と珍しく迅君が持っていた荷物を私に向かって差し出した。

「みょうじさんにお土産買って来ちゃった」
「ぼんち揚げ?」
「いやいや、ぼんち揚げなら態々買わなくてもストックあるし」
「ストック……さ、流石」

じゃあ何かな、と貰った袋の中を覗き込む。小説が2冊。中身を確認する前にパッと顔を上げてしまった。

「迅君」
「いいから中身。読んだことない奴か確認してよ」
「そういうミスしないタイプの癖に」

文庫本2つ。シリーズ物の最初の1.2巻だった。確かに少し気になってたから嬉しいし、ありがたい。けど今言いたいのはまずそういう事じゃない。

「ありがとう。これ、気になってたやつだからすごく嬉しい。でも、迅君に買ってもら」
「はいストップ」
「え」
「言いたい事はちゃんと視えてたよ。気を遣ってるっていうのも嘘じゃないかもしれない。けど、俺だってちゃんと考えて、それで買って帰りたいって思ったから」
「……でもやっぱり、気になっちゃうんだよ。私は何から何までお世話になってて、貰うものは沢山あるのに何も返せないから」
「世の中全部が全部ギブアンドテイクって訳じゃないよ。それに、お土産はみょうじさんにだけじゃないんだな。はい、小南。みんなで分けろよ」
「やった!どら焼き!」

紙袋を手に喜ぶ小南ちゃんから私に視線を移して、ね?と微笑まれる。多分あのどら焼きはみんなの分、そこにはちゃんと私も入ってて、買ってくれた本とは違うのに、これも彼の気遣いだ。

「なまえも深く考えなくていいのよ。迅はそこらの奴より稼いでるんだし、買いたくて買って来たんだから」
「……うん。ありがとう、桐絵ちゃん」
「べっ、別に分かればいいのよ。じゃあ私夜ご飯の準備してくるから!」

照れてそっぽを向いた桐絵ちゃんが逃げるようにキッチンに入る。

「じゃあ俺も一旦部屋に戻るよ」
「うん。迅君、」
「ん?」
「えっとね、色々気になっちゃって遠慮しちゃったりするけどね。迅君が気にかけてくれてるの嬉しいよ。本当に、ありがとう」
「、……そこまで言われると照れちゃうなぁ」
「ふふ、じゃあ私も部屋戻ってこの本読んでくる」
「夕飯出来たらちゃんと中断して来てね」
「はーい」


そうして部屋に置かれた2冊が、ふとした時に迅君が買って帰ってくることで少しずつ増えていって、置くための棚が増えて、そうやって部屋が出来ていくのを見て少し嬉しくて、少し怖くなった。



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