鈍痛 | ナノ




「及川じゃん、おはよー!」
「おは、っ……おはよー」

いつもの生活リズムを崩してまであんなに考えたのに結局何の成果もないまま今日。いつものように挨拶を返そうと振り向いた先、見覚えのない女子生徒の横に彼女はいた。

「おはよう」
「、うん。おはよう」

元気よく手を振るその子に慌てていつもの顔で手を振ると、なまえちゃんもいつもと変わらない小さな笑顔でおはようと短く言った。何も、変わらない。昨日のは夢だったんだと、そう思う程に。
そのまま自分の教室へと戻って行く姿を見ていたが、視線が彷徨うことも足がもつれることもなかった。つきりと痛んだ胸にかおをしかめたけれど、今度は後ろから声をかけられて、それをいいことに小さな背中から逃げた。嫌われるよりは無かったことにされる方が余程マシだろうと決めつけるように考えて。そう、考えてたのに。

「岩ちゃーん……」
「あ?」
「ちょっ、怖い!」
「みょうじの事だろ」
「そうだけどさぁ」
「このままスルーすんのか」
「それは嫌だけど、なんかなまえちゃんに避けられてるっぽいし」
「俺は知らねぇよ、自分でなんとかしろ」
「えっ、どこ行くの!?」
「隣のクラス」

どうしようと岩ちゃんに愚痴ること2日。岩ちゃんの言う通り自分でなんとかしなきゃいけないのは分かってるけど、避けられてる今、嫌われてるかもしれないのに話に行く勇気がでない。お前がはっきりしろよ。そう言い残された言葉に大きなため息をついた。だってなんであんなことしたのか分からないんだ。


「……みょうじ、」

教室に入ろうとするとうちのクラスに用があったのか、そこから出て来た岩泉君とばったり出くわした。とたん気まずそうな顔をする彼。

「悪いな。あれでも及川の奴、反省はしてるんだ」
「うん、分かってるよ」
「気が向いたらでいい。あいつと話してやってくれ」
「そのつもりだけど、本人がこのままであまり話したがらないからね。多分、向こうからアクションがない限りこのままだと思う」
「まぁ、今回はあいつが勝手にうだうだしてるだけだからな……」
「ほんと、私を前にすると挙動不審になるんだもん。及川君って本当は凄い乙女チックな女の子なんじゃないの」
「はっ、違いねぇな。ま、バレーは嫌でも頑張ってもらうからな。そっちは気にせずいつも通りにしててくれ」
「そう言ってくれると嬉しいよ、ありがとう。今度岩泉君に差し入れでも持っていこっか?」

本当に及川君のお母さんポジというか、男前というか。それを褒めた上で冗談混じりにそう言うとふと、彼の顔が真顔になった。

「いいのか?」
「へ?ああ、うん。別に構わないけど。ただ何差し入れたらいいかとかはあんまり……」
「さっぱりしたもんが食いてぇな」
「さっぱり……アイスとか、ゼリーとか?」
「じゃあゼリー作ってくれ」
「え、作るの?じゃあ岩泉君の分だけでいい?」
「おう。部活中でも平気だから頼んだ」
「ん!頑張ってみます」
「さんきゅ。んじゃあな!」

さて、ゼリーを手作りとは微妙に面倒なことになった。けれどお菓子作りなんて久々だし料理は嫌いじゃないから少し楽しみにもなる。

(1個だけだしがんばろー)



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