鈍痛 | ナノ




部員が練習を辞めて片付けに入る。それを見て下に降りるとクラスメイトの一人がよっと手を上げた。合わせて自分も片手を持ち上げ顧問の姿を探す。挨拶ぐらいしてから帰ろうと考えたのだが、なにやら話し込んでいるのだから仕様がない。

「なまえちゃん」
「及川君、おつかれ」
「ありがと。どうだった?」
「いつも通り楽しかったよ。皆にもありがとうございましたって伝えておいて」
「えっ……あー、うん。言っとく言っとく」

あれ。
なんだか変な感じがして及川君を見上げた。そういえば影山君を気にしてたとかそんな話がきっかけで呼ばれたんだったと気付く。

「及川君はこのあと居残り練習するの」
「そのつもりで……あ、いや、でも別になんとなくやろうかなって思っただけだからどっちでもいいんだけどさ」
「なら練習して帰りなよ」
「あ、うん」
「あとね、もし迷惑じゃなかったら居残り練習見てていい?」
「え?」
「一人のが集中出来るなら気にせずきっぱり断ってくれていいよ」
「……全然。全然、大丈夫だから見てってよ」
「うん。あと私一回抜けて肉まんでも買ってくるけど何かいる?」
「俺も同じの!」

じゃあ、と背を向けて体育館をあとにしようとすると、何人かの部員からナイスとかサンキューと声をかけられる。そこまで影山君話で影響が出たのか、珍しい。そもそも及川君はそんなに弱いメンタルじゃないし、影山君の件は特に今まで何の問題なかったのだから、何で今回に限って悪影響が出たのか不思議なところだ。

(少し調子が悪かった時期だったのかな)

青城生がよく使うコンビニに行くと肉まんが残りひとつしかなかったので、代わりにピザまんを買って外に出る。そういえば最近、及川君と頻繁に絡むようになったなぁとなんとなく考えながら帰りが遅くなると連絡を入れた。
体育館へ戻るとすっかり人も減り、やや閑散としている。とは言っても及川君一人ではないため、食べるのはあとにしようと考えながら体育館の壁にもたれて座り込んだ。さっきと比べ静かで、僅かな喋り声と単調なボールの音だけが聞こえる。居残りなんてろくにしなかった私にはあまり見覚えのない光景だ。
サーブ練習をする及川君が打ったボールのひたすら見つめる。宙に放られ、打たれ、床にぶつかる。その繰り返し。人がさらに減った頃、近くに置いてあったドリンクを飲むと彼がこちらを向いた。

「待たせてごめんねー。肉まんいくらだった?」
「あ、それなんだけど肉まんとピザまんどっちがいい?」
「肉まん!」
「ん。休憩?」
「うーん、食べたら片付けて帰ろうかな」
「そう」

少し冷めてぬるくなったピザまんにかぶりつく。及川君が休みに入ったからか最後に残っていた部員が片付けをして帰って行った。包みのガサガサいう音だけが耳につく。

「及川君ってさ」
「ん?」
「空いてる時間が少しでもあれば練習してるイメージだった」
「息抜きも必要なんですぅー」
「いや、そうじゃなくってさ」

一口だけ食べてから続きを話そうと思ったけど、口に含む寸前でそれをやめた。

「無理に練習ばっかしてそうだったから、ちゃんと体調見て適度に切り上げられるんだなぁって」
「……まーね」



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