鈍痛 | ナノ




私は余り普段の練習の見学に行くことはない。まぁ練習の時まで見学がいると集中出来ないとか、片付けの時にそっちまで気を回さないといけないとか、そういう理由で元からあまり見学する人はいないけれど。つまるところ平日は授業が終わり次第自由の身となり、さっさと帰ってしまうのだ。
ところがだ。何故か今日に限って及川君に見学に来るよう言われた私は、寄り道する予定があったため悩んでいたところ岩泉君に更に後押しされて体育館に向かっている。影山君と会ってから何日か経ったぐらいのことだ。クラスが早めに解散になった岩泉君が及川君を着替えに追いやり、体育館まで連れてっていってくれる。

「見学の子って他にいるの?」
「いや、普段は殆どいねぇからな。多分お前だけだろ」
「えっ……凄く肩身狭いんだけど。どのタイミングで帰ればいいのかな」
「及川は一緒に帰るつもりだろうな。まぁ別につまんなかったら好きに帰っていいぞ」
「それはない」
「あー、そういやそうだったか」

お前及川のプレー見に通ってるんだもんな、と笑った岩泉君にまーねと返す。扉を開けるとぱらぱらと準備に勤しむ部員達が岩泉君に挨拶をして、うち数名が私を見てあっと言ってから作業に戻っていった。もしや私が青葉城西の主将を不調に陥れた女として知られているのだろうか。それとも見学に来るから覚えられていたのか、岩泉君の彼女にでも間違えられたか。

「上にいればいいよね」
「別に今日は一人だし監督の隣座っててもいいぞ?」
「うーん、それはちょっと……いいよ、いつも通り上から見てる」

監督の横なんていつも上から観戦してる私には近すぎる。何より居心地が悪い。話したこともない監督とその周りに集まる部員とか考えただけで畏縮してしまいそうだ。流れ弾ならぬ流れ玉も心配な訳だし。

「ねぇ、今日なにかあるの?」
「何かってなにがだ?」
「いきなり練習見学来いとか。珍しく岩泉君まで推してくるし」
「お前が、影山に取られるんじゃねぇかって心配なんだと」

なんだそれは。いや、LINEがきたぐらいだから気にしてはいたみたいだけど、まさかプレーに支障が出るまでってなんなの。繊細というか、なんというか。

「写真ぐらいで……女子か。彼女か」
「はっ、そりゃあ言えてるな。まーそういうわけで今日は頼んだ」
「あっなまえちゃーんお待たせー」
「あ、うん。じゃあ上行ってる」
「えっ、ベンチで見たいの?及川さんの勇姿をもっと近くで見ててもいいんだよー」
「黙れグズ川」
「上からでも勇姿は見れるから。じゃ」
「みょうじのが男前だな」

2階から練習風景を見下ろす。試合とは違うバレー部、試合とは違う及川君。それなりに上級生が各々アドバイスをしたり指示を出したりしているけれど、やはり一番上に立つ及川君が基本的に全体を統括していて、憧れを強く感じた。



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