鈍痛 | ナノ



ある日の放課後の事だった。さっさと家に帰った私が友達にとにかく来いと定番のファーストフード店に呼び出されたのがことの始まりじゃないかと思う。キャンペーンで安くなっているポテトを買って目当ての友達を探す。
その席が人目を惹いていたのはこっちだと大声で手を振る友人だけが理由ではなかったらしい。

「この子だよ!」
「あ、やっぱり!君よく試合見に来てたよね!」

目をぱちくりさせた。そこに居たのは他でもない及川徹で、同級生とは言え全くと言っても過言ではないほど接点のない私が驚いたのも無理がないことを察してほしい。

「なんで、」
「いやぁ、なまえの話してさ、二人で会って話してみないかなーって思って」
「及川徹です。よろしくねー」
「みょうじ、なまえです……」

軽く頭を下げて二人の向かい側に座ると彼はにっこりとこちらを見て笑った。

「いやーずっと気になってたんだよね、よく一人で静かにこっち眺めてるから」
「ガン見してすみません」
「いーって!可愛い女の子に見てもらうの及川さん大歓迎だから」
「はぁ」

このテンションは素なのだろうか。もしも違うとしたらこの人体力ありすぎ。そんなことを思いながらポテトを口に運ぶ。

「それで、なまえって及川のどこが好きなの」
「それ本人を前にして聞くの」
「本人の前だから!いっつも教えてくれないじゃん!」
「別にそんな大層な理由じゃないし」
「なまえちゃん本人を前にしてそれを言うの……」
「あ、ごめんなさい」
「ん、いーよ。理由教えてくれたら許してあげる」

一瞬、口を噤む。だってバレーやってるわけでも詳しいわけでもないからこういう場面のこういうプレーが、とかこの技が、なんて事は言えないのだ。そして恥ずかしい。

「……及川君は、チームのメンバーのポテンシャルを引き出すのが上手だったから。私、そういうの苦手だから凄いなぁって思ったし、あんな風に出来たら、コートが今までと違って見えるのかと」
「……なまえちゃん、バレー経験者?」
「私スポーツやってたなんて知らなかったんだけど!」
「バレーじゃなくてバスケで……わざわざ言うような事じゃないし」
「えぇー。まぁいいけどぉ……」
「バスケか、カッコいいねぇ」
「及川はバスケ得意なの?」
「うーん、俺は体育くらいでしかやった事ないからね」

段々と話が逸れていく二人を他所にポテトを黙々と口に運ぶ。本当に、彼みたいになれたらどんな試合になるんだろう。

(でもそれはそれで……)

「なまえちゃん?」
「あ、ごめんぼーっとしてた」
「しっかりして見えるけど意外とのんびり屋さんなんだね」
「いや、そんなことは」
「またまたぁー」

ちょっとつまらなさそうな顔になった友人を見て、そろそろ頃合いかと時計を見やる。

「私そろそろ帰るから。及川君も今日はありがとう」
「今度練習見学においでー」
「そうする。じゃあね」



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