鈍痛 | ナノ




「「あ」」

烏野の友達も一緒に遊んだからだろうか、帰り道にまた影山君と遭遇した。お互い思い切り声を出してしまったので、あっ影山君だーなんて軽くスルーすることも出来ず口を開いた。

「こんばんは。練習終わったところ?」
「ウス」
「お疲れ様」
「ありがとうございます」

彼が軽く頭を下げた後、沈黙が降りた。まぁ直接知り合って間もないしお互いお喋りではないし。この気まずさ、新しいクラスメイトと話題に詰まった時のあの感じに似ている。こういう時はどうすれば、えーっと、

「LINE交換しよう」
「え、LINEすか」
「違うな」
「は?」
「ん?あ……ごめん。なんでもない」

うーん、共通の知り合いでもいれば誰々元気ぃー?とか出来たんだけど。

「LINE、IDでいいんすか」
「え、交換するの」
「だって今交換しようって」
「いや、今のは違くてー……あー、じゃあ、交換しよっか」
「先輩のID見せてもらえますか」
「ん、ちょい待ち。てか影山君ってLINEするの?」
「部活の連絡来たりするんで……気付かないこと多いですけど」
「なるほど。私これ」

名前と誕生日の至ってシンプルなものなのだが、影山君はアルファベットを一文字ずつしかめっ面で入力していく。そういえば及川君が飛雄は馬鹿だからねっ、とか言ってたな。あれ負け惜しみかと思ったけど案外本当かも。そう考えると試合の時の印象がさらに変わって愛嬌が湧いてきた。

「試しになんか送ってよ」
「な、なんか?」
「うん」
「え、えっと」
「今の気持ちを一言?」

朝コメンテーターが言ってたフリをそのまま口にしてみると登録されていない初期アイコンから腹減ったと飛んできた。お腹空いてたのに足止めさせて申し訳ない。

「初期アイコン……」
「?」
「えと、に、肉まんでも奢ろうか?」
「え!いいんですか!!」
「食いつきすげぇ」

今日一番のキラキラした顔を見せた影山君に軽く笑ってコンビニへ向かう。

「アイコンつけてないんだね。バレーボールとかかと思った」
「日向が……俺のチームメイトがアイコンそれなんで、真似すんなって言いやがって」
「あっ、オレンジの髪の子でしょ」
「はい」
「じゃあ好きな食べ物にしてみるとか?」
「LINE開くたび腹減るんでそれは……あと、面倒いのに絡まれて友達との写真アイコンにしてみろよって言われました」
「?じゃあそうすれば?」
「っ……俺、そーゆー友達……いないんで」
「バレー部以外の子と写真撮ったりしないの?休み時間とか」

まぁいつも女の子中心に人に囲まれてる及川君見てると麻痺しがちだけど、授業とバレーの練習ばっかだもんなぁ。

「肉まん二つ」

袋いらないです、といってほかほかの肉まんをゲット。夜遅いからもうないかなぁと思ってたのでラッキーだ。

「はい」
「あ、あざっす!いただきます!」
「ん、めしあがー……あ」
「?」
「じゃあ私と友達になろう。友達に年の差は関係ないしね。ほら撮るよ」
「えっちょ」

自撮りは得意ではない上に身長差が意外とあるものだから苦戦していると、俺やりますと言ってスマホを奪い取られた。

「ほらピースピース」
「じゃシャッター押しますよ」

カシャ、と軽いシャッター音が鳴ったスマホに肉まん片手に笑う私と肉まんを大きく頬張った影山君が写った。リスのようにしてピースをする影山君なんか可愛いなぁとほっこり。

「これ送るからアイコンにしなよ」
「……と、友達と……写真」
「うん」
「あ、あざっした!」

思った以上のこう、喜んでいるというか、欲しかった新作のゲーム手にした時みたいな顔ををするものだから嬉しさ反面複雑な気分だ。この子、中学とか友達いたのかな……。
たいして大きくもない肉まん食べきってすぐ、分かれ道で影山君に手を振ってまた帰路に。最寄りで降りて自宅へと歩きながらなんとなく携帯を見てぎょっとした。

”何で飛雄のアイコンなまえちゃんとツーショなの!?””なまえちゃん!?””ねぇねぇ携帯みて!””もっもしかして飛雄にお持ち帰り…””ぎゃあああ””なまえちゃーん!”

LINEって細々と送れるし自分が思ったよりもメッセージ溜まるから怖いよなぁ。

”たまたま会った”

すぐ既読がついた。ちょうど帰り道か帰宅したか、そのどちらかなのだろう。

”えー!俺まだなまえちゃんとツーショット撮ったことないのにぃ”
”肉まん美味しかったよ”
”話変えないで!”
”今度一緒に食べよっか!”
”そうだね”

返信をしているうちに家に着いた。つい影山君と一緒になって肉まんを食べてしまったためお腹はいっぱい。友達と遊ぶから夜ご飯いらないって言っておいて良かった……。

「ただいまー」
「おかえりー」
「風呂沸いてるよ」
「んー」

部屋に荷物を置いて寝転がりながらトークをまた開いた。ここまでの短い間に及川君はどんどんメッセージを送ってきていてほっこりしていた気分に苛々がさす。気付けばすぐに電話していた。

”なまえちゃん!もーびっくりしたぁ”
「要件は簡潔に述べよ」
”えー。だって言いたいこと沢山あるし”
「じゃあその時は電話にしてよ。打つのめんどい」
”ん、そーする。てか何で飛雄のアイコン”
「寧ろ私は及川君が影山君のLINE知ってるのにびっくりしたよ」
”そりゃ同じバレー部に居たことあるし”
「あ、そっか。なんか先輩に友達との写真にしろって言われたらしくて」
”飛雄友達少ないもんねー”
「言ってた言ってた。バレー部の皆で写真撮ればいいのに」
”ちなみに俺の今のアイコンこないだのだよ!”
「あー見た見た。LINEのタイムラインであんなコメントされてる人初めて見たよ」
”まぁねー。かっこいいって言われちゃった☆”
「バレーしろよとも言われてたね」
”ちゃんとしてますぅー”
「知ってる。お風呂入ってくるからそろそろ切るね」
”ん、おやすみ”
「……」
”なまえちゃん?”
「なんでもない。おやすみ」

今のおやすみの声がなんだか凄く良かったなぁ、と浮かんが考えを口にしたら最後電話を切るどころかおちょくってくるのが明らかだったので大人しく通話を終えた。



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