鈍痛 | ナノ



試合をひたすら眺めるだけだった。後輩君の話は先に聞いていたからすぐに分かった。背の高い、黒髪の子。目つきが鋭くてあれは人以上に横暴さを感じさせてしまうんだろうなと考える。
試合が始まって、終わって、コートが一度真っさらになるまでぼうっと座っていた。青城は勝った。向こうも中々粘っていたけれど、何より怖かったのが向こうの影山くんが変わった時だった。
恐ろしい。きっとこのまま彼の伸び代は右肩上がりで留まる事を知らない。その時、青城は、及川君は勝てるだろうかと。やはり思ってしまう。
試合は全て見た。その間全くもって及川君と連絡は取らなかった。烏野に勝った青城は、白鳥沢に敗れた。接戦だったけれど、勝つにはセットを取らなくてはならない。接戦だとしても、取れなきゃ勝てないのだ。
その試合が終わった時の及川君の顔は苦しげだったけれど、私の中には烏野との試合が、影山君との対戦がちらついて離れなかった。
その約五日ほど経った頃にメールが届いた。一緒に遊ぼうと、前とあまり変わらない文面で。

「お待たせ。早かったね」
「さっき着いたとこだよ」

少しだけしんみりした雰囲気の及川君が出迎えてくれる。場所も席も前と同じだった。

「春は出るの」
「もちろん」
「そっか」

静かになって暫くすると、ぽつりと何か買わないの、と声をかけられた。

「コンビニの唐揚げ食べたいからいい」
「コンビニの唐揚げって……」

苦笑する彼にどんな言葉をかけるべきか私は分からない。多分、一生分からないんじゃないかと思う。

「どうしたの」
「何が?」
「私を呼んだ理由。安西先生みたいに大層なお言葉言えるわけじゃないよ」
「飛雄ちゃんに勝ったの褒めてくれないの?」
「あの上げて落とす感じ、中々鋭い勝ち方だったね」
「でしょー」
「フルボッコだったのかは迷うけど」
「……分かった?」

飛雄が、変わったの。
ふるりと体が小さく震えた。そう、私は一番彼を理解できない位置にいるのにこうやって話しかけてくるから。理解者だと思われているような感覚がひたすらに気持ち悪い。私って面の皮の厚い人間だったろうか。

「分かったよ」
「……春高、飛雄は、あのチームは更に強くなって、来る」
「……」

その呟きは誰にも向いてないように聞こえた。向こうは確かにミスがあった。わだかまりもあった。それが全部なくなったら。さらにレベルを増したら。

「……出よっか。俺もコンビニで何か買おっかな」

結局飲み物しか頼んでないし小腹空いちゃった。と笑う姿はいつも通りのものだ。店員の声と視線を背中に、すぐそばのコンビニで唐揚げとチキンをお互い買って近くの公園で腰を下ろす。

「この化学調味料の味がたまに恋しくなるんだよね」
「俺化学調味料の味って初めて聞いたよ……なにそれ怖い!」
「や、ほら、なんか味濃いやつってこと」
「なまえちゃんってたまに面白いよねぇ」
「及川君もたまに面白いよ」
「褒め言葉かな!」
「うんうん」

空になったゴミを丸めて捨てる。二人ともゴミ箱にすとん、と一発でクスリと笑いあった。

「はぁー……疲れたぁー」
「お疲れー」
「全くあの爽やか君は面倒なことしてくれちゃって」
「それ交代で入った人のこと?」
「そ!」
「確かに足りないもの教えられちゃった感じではあったよね」
「ほんとだよ!折角俺が飛雄に何も教えないできたのに!!」

ぶーたれる及川君を軽く笑うと、ちょうど携帯が鳴った。及川君のものだった。中身を確認して、携帯をまた閉まったのを見計らって声をかける。

「そろそろ帰る?」
「そうだね」

そう言って座りこんだまま、地面を見たまま。及川君が呟いた。

「ほんっと、天才ってムカつく」

ちらりと横顔を見た。夕日に照らされて少し陰を落とした整った顔は、私がよく知っていて、理解の出来ない表情を浮かべていた。
やっぱり私は駄目みたいだ。



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