鈍痛 | ナノ




及川君が岩泉君に引きづられていった日の夜のこと、お互いアドレスなんて知るはずもないのに及川君から一通のメールが届いた。人にアドレスを聞いてメールを送ってきたこと、今日の私の様子を見て気になったこと、月曜日の放課後遊びに行こうとのこと。
こんなに周囲に気を回せるとなれば慕われるのも当然か。 心配してくれたことへの感謝と、もう大丈夫だということ。そしてその日は暇だから遊ぼうと返信を返す。
もう週末に差し掛かっていたから月曜日になるのはあっという間だった。そういえば遊ぶこと以外なにも決めてないけどどこに行けばいいんだろうか。そう考えながらさようならのかけ声で頭を下げて荷物を持つ。取り敢えず彼のクラス覗くかなと思って廊下に出ると目当ての人物が数人の男子と話しているのが見えた。女子に囲まれているイメージが強いけど結局は普通の高校生なんだよなぁ、と当たり前のことを今更痛感した。
彼はというと私を見つけるとそろそろ帰ると言って階段を降り始めた。成る程そういうことか。後を追うようにして下へ向かうと、既に靴を履き替えた及川君の姿。

「よかったー来てくれて」
「え?」
「いや、気付かなくてアイツ先に帰ったとか思われたら、ってちょっと心配でさー。ごめんね、あいつら人の事はやしたてんの好きだから」
「ああ、それで」
「そーゆーこと。じゃ、行こっか」
「どこ行くんですか?」

上履きをしまって隣に並ぶ。結局今日の行き先は決めてなかったけれどどこに行くのだろうか。放課後だからたいした所に行く時間はないけれど。

「なまえちゃんは行きたいとこある?」
「行きたい所、は……特にないです」
「じゃあ座って喋れる所行こっか」

そう言われてやっぱり彼はこの間のスランプ云々の話がしたいのだろうな、と思った。着いた先はごく普通の全国にチェーン展開しているカフェ。ファーストフード店ほど煩くなく、静か過ぎない場所だ。
別々に会計を済ませて席に戻るとお互い飲み物と軽食程度で、財布を片付けるついでに夕飯は食べるとだけ母にメールを送った。
暫くは他愛ない内容だった。あまり話すタイプではない私に代わって色んなことを話してくれたし、自分ばっかりにならないように沢山質問もしてくれた。少し気を使わせてしまっていることに気負いしたけれど。

「ねぇ、そのケーキ一口もらってもいい?」
「うん。どうぞ」

皿を差し出して及川君がそれを飲み込むまで小さな沈黙が訪れた。

「うん、おいしい」
「……ねぇ」
「なぁに?」
「今日誘ったのは、スランプの話をしたから?」
「んー、当たらずとも遠からずかな」

なんだと思う?と頬杖をつく彼ににっこり問われるものの心当たりは浮かばない。首を横に振ると及川君は手にしていたフォークを置いた。



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